世間を騒がすプデュ不正疑惑の中心で厳しい視線を浴びているエムネット。
そんな彼らが騒動の最中でもお構い無しに放送していたアイドルサバイバル番組が「カムバック戦争・Queendom」でした。
アーティストたちが互いを配慮するため、カムバック時期が重ならないように調節してきた音楽界の暗黙の了解を大胆に破って、名実ともに“ワントップ”になるために、一歩も譲らない真っ向勝負を繰り広げる。
こんな刺激的な謳い文句と共に発表された番組は、つい先日ママムの優勝で幕を閉じ、全10回の放送を終えました。
最初に放送決定のニュースを聞いたときには、やたら挑発的な番組内容(とタイトル)に嫌な予感しかしなかったんですが、終わってみるとこれが意外にも良い番組でした。
というのも、確かに宣伝通り最終回で6組のガールグループが新曲のステージを通して激突して見せたのですが、そこに至るまでに丁寧に積み上げられた過程が、出演者全員の舞台に対する熱意と魅力に照明を当てることに成功していたからだと思います。
多彩な舞台が用意された「Queendom」の中心的な要素のひとつとして、自分達のレパートリーの中から好きな曲を選び、この番組のために改めて創意工夫を凝らしてステージで新しい姿を披露するというルールが設けられたステージが挙げられます。
現役のアイドルが客観的に自分達自身をプロデュースして、グループのコンセプトやそのステージに対するアイデアを考えながら、最も魅力的に映る姿を探して試行錯誤する光景はとても新鮮で、ここからは一般的に思われている受動的なアイドルイメージを変える可能性も感じました。
更に、そんなステージの中にあって特に印象的な仕掛けだったのがライバルチームと曲を交換して代表曲を演じあうというもの。
相手に対する敬意と挑戦が混ざり合ったこの対決場面は、間違いなく番組を通したハイライトのひとつだったと思います。
このルールを通してAOAとMAMAMOOが互いにカバーし合ったり、OH MY GIRLがLOVELYZ「Destiny」に再解釈を加えたステージを披露するなどして、ここから番組屈指の名場面が生まれる事になりました。
そんな「Queendom」はMAMAMOOの優勝で幕を下ろしましたが、グループの実績とファンダムの大きさを考えればこの結果は放送前より予想できたことで、これ自体は意外性のない終わり方だったともいえます。
ただ前述のように、この番組は最終結果よりもその過程が一層輝いていて、その意味からすると、真の主人公は準優勝のOH MY GIRLだったのではと、個人的には思っています。
今回の参加者の中では相対的に知名度で劣り、同じくファンダムの規模も大きくないために不利と見なされていたおまごるが、しかし蓋を開けてみれば素晴らしいステージを連発して、終わってみればママムに次ぐ二位。
番組を超える反響を起こした「Destiny」の東洋風カバーだけでなく、「Secret Garden」の丁寧なアレンジ、「Twilight」にゴシックな雰囲気を加えて再解釈したパフォーマンスなど、全体的にとても高いクオリティの舞台を表現し続けた上でのこの結果は誰しも納得のものだと思います。
個人的にもヒョジョン&スンヒのボーカルラインの実力が改めて注目されたり、メンバー同士が「OH MY GIRL」というものをどのように表現するべきかと相談しあう場面があったり、まるでおまごるを再発見してゆく過程を見せられているようで新鮮でした。
あとやはり、自分をKPop世界に引き込んだきっかけであるビニさんが、ステージ毎にビジュアルを更新していて相変わらず可愛かったのも良かった。
しかしその一方で、おまごるのライバルと見なされていたLOVELYZは少々話が異なりました。記事のタイトルには敗者なき、とか付けましたが、正確に言うと番組通して最も苦戦していた出演者がラブリズだったと思います。
他のグループは皆、AOAもママムもアイドゥルもパクボムさんも、そしておまごるも、自分達に出来る事を理解して、自分達の強みに引き付けた上で既存の曲に新しい解釈を加え、表現していました。決して出来ない事をやろうとしたわけではなかった。
それとは対照的にラブリズは放送初期、慣れないコンセプトを無理に見せようとして原曲の良さを損なったり、自分自身の長所を見失うなどして、舞台の内容そして対戦結果共に中途半端なものになっていました。
ただそんな彼女達もようやく番組終盤、「Cameo」のステージでスクールミュージカルっぽい舞台を表現し、最後にはメンバー全員が意中の男子に振られてしまうというコミカルで華やかなステージを披露してその魅力を示すことに成功しました。
このアメリカンで陽気な雰囲気を表現できる良い意味での荒さ、底抜けに明るい色彩感覚はおまごるには扱えないもので、ここが「コンセプトで被る部分が多い」とされるライバルとの違いが生まれる部分だと感じました。
今回の放送で一番損な役回りを演じていたように見えるラブリズも、こうして自身を見つめ直すきっかけを得たことが、これからの活動に繋がっていくのではと期待しています。
「Queendom」に対する韓国での好評価の中で、特に印象に残っている指摘があります。
それは、出演したアイドルが製作側(つまりエムネット)の用意した露骨な対決構図に乗らず、競争相手と互いに尊重しあい、乗り越えるべきは自分自身という姿勢を示したことが、番組を当初の意図を超えた素晴らしいものにした、というもの。
これに関しては、出演者が互いに先輩後輩の間柄にある現役アイドルなので、むき出しの闘争心をカメラの前で見せること自体がそもそも考えにくかったということは付け加えられるかもしれません。
それでもこの指摘は「Queendom」の成功が新たなアイドルプログラムの可能性を含んでいることを示唆していると思います。そしてそれを可能にしたのが他でもないアイドル自身だったということも。
5人体制になって再起を図るAOAや、同じくリスタートを目指すパクボム。新人として先輩に挑戦するアイドゥルに、中堅グループとなりつつある中で変化と成長を示すべき時期のおまごる、そしてラブリズ。
コンセプトも、KPopシーンにおける立ち位置も違う6組が集まって繰り広げられた「Queendom」はそれぞれの異なる魅力が調和して響き合うひとつの風景だったようにも見えます。
そこでは競争という枠組みを残したままで全員が勝者、そして主役になれる可能性と、そしてアイドルが自分自身を雄弁に語る機会を新しく生み出すことに成功しました。
考えてみればアイドルは普段から過酷な競争に身を置いているわけで、ならばこうした番組を通して敢えて表現されるべきなのは、その現実とはまた違った、参加者全員がそれぞれ輝き合って普段は見ることのできない相乗効果を生み出す、ある種の理想郷なのではないでしょうか。
今現在騒動の渦中にあるエムネットが作ったアイドルプログラム「Queendom」は、その内容のどこまでが製作側の意図していたものだったのかは分かりませんが、結果的にこれからのサバイバル番組が目指すべき方向までも示しているように感じました。