毎年この時期になると「今年は色々あった」とか言いたくなるんですが、でも2019年のKPopシーンは本当に色々ありました。
思い出した順に並べてみただけでも、PRISTINの解散やモモランド&Cherry Bulletからの複数メンバー脱退に、TWICE・ミナさんの休養とかプデュ騒動のあおりを受けたIZONEのカムバ中止など本当に色々。
そんな今年はKPopが大きく揺れた年だったと表現できると思います。
でもそれが、ビルボードを駆け上がりウェンブリーでライブを行ったBTSに代表される、KPopが世界に向けて発しているエネルギーが生み出したものなのか、それともアイドルの健康不安に関する一連のニュースが暗示するように、KPopを支える柱が小さな異常を見せ始めているためなのか、今この大歓声の中でそれを見分ける事はとても難しい。
以下、そんな事を考えながら今年を振り返った内容の記事です。
相次いだ悲報
年内最後の記事でこうしたことに触れなければいけないのは残念なんですが、2019年のKPopシーンを振り返り、更にこれから先を展望しようとするときにこの話題は避けることは出来ないと思いました。
少し前を思い返すと、あの世界中を駆け巡ったふたつの結末に関して、韓国メディアでは有名人とSNSとの関係、あるいは女性アイドルに対する性差別的な視点の存在から解説しようとする傾向が目立っていました。
しかし、まだ記憶に新しい一昨年の訃報や、ここ最近でも頻発している心身の不調によるアイドルの休養のニュースも併せて考えると、私はKPopアイドルシーンに特有の原因があるとする考え方をとりたいと思ってます。
成功へのプレッシャー・日常的に大衆の視線に晒されるストレス・将来への不安を抱えながら多忙なスケジュールをこなす毎日そしてダイエット等々、アイドルを追い込む理由として想像される要素は数多い。そしてこれらは全てKPopが今の勢いを成立させるために必要だとされているものです。
つまり悲劇の根本にはKPopの現実そのものに由来する原因があるということ。従ってそのことを直視しないと、いつかまたこの世界は誰かを失うことになりかねない。
しかしまず考えられるべき事として、有名なアイドル評論家のパク・ヒアさんがニュース記事の中で提言されていたように、アイドルという非常に特殊な職業に特化した、専門的なノウハウを持ったカウンセリングのシステムが必要とされているという意見は広く共有されるべきだと思います。
おそらくこうした分析の背景には、現状どの事務所でもアイドルの精神的ケアに関してはありきたりのカウンセリングや投薬での対応しか行われていないという専門家の現状認識があるはずです。
ク・ハラさんに関する一報が伝えられたとき、確かアイドルグループ・神話のメンバーの人が、おざなりな投薬治療でアイドルのメンタルケアを済ませてきた業界に対する怒りをSNSで表明したことも、そうした現状の一端を覗かせます。
しかしこうした対症療法的な対応の充実とは別に、やはり問題の根本には今のKPopシーンのあり方に深く根ざした構造があるのだとすると、所属事務所やテレビ局といった業界全体の姿勢が問われることになるのは避けられないのではないでしょうか。
自己肯定は誰のため
加えて、私には一連の悲報が最近のKPopの表現そのものに対する強い批判までも含んでいたように感じています。というのも、意地の悪い表現かもしれませんが最近のKPopシーンはまさに自己肯定ブームです。
「自分を愛して」「人とは違う私」「私は女王」等々、音やビジュアルは違っても、自分であることを肯定して誇りを感じよう、という意味の歌詞を歌うグループは本当に多い。
ところが、そうしたメッセージを、まさにKPopの中心にいたアイドル自身が究極的に自分を否定するという形で拒絶してしまったという現実は重い。
これはまるで、アイドルは自己肯定という名の鮮やかなリンゴを高く掲げてその美しさ・素晴らしさを世界に向けて高らかに歌い上げるけれど、現実に手にしているのはレプリカで、決して口をつける事はできない偽物だと明かされたようなもの。
歌詞の真正性が疑われた先に現れるアイドルの姿は、そんな悲しい寓話の主人公にも見えてしまう。
アイドルという存在がある程度の虚飾を前提とする職業だということは承知していますが、自己肯定という姿勢は人間である限り尊重されるべきもので、アイドルだからフリをしていればいいというものでは絶対にない。
むしろ自己肯定感からかけ離れた状況にアイドルを追い込みながら、表面的には自分を愛そうなどと歌わせる状況があるとしたら、それはとても受け入れられない皮肉です。
そしてトップアイドルが自己を否定するという結末を目の当たりにした若いアイドルにとって、努力の末に自分達が辿り着くべきだとされる場所は、そもそも本当に目指すべき所なのかという、アイドルという存在に関して根本的な葛藤を生じさせる可能性すらあると思います。
KPopをビジネスとして主導する人達には悲報に対してその場限りの哀悼の言葉だけでなく、業界全体を巻き込んだ具体的な対応が求められているはずです。彼らが現場のアイドルから見れば親以上の年齢であり、なおかつ強い権限を持っていることを考えると、なおさらそう思います。
たとえ具体的な対策を講じる事が時間の掛かることだとしても、せめて問題意識は共有しているのだという姿勢だけでも見せてほしいんですが、残念ながらそうした声は未だにどこからも聞こえて来ません。
ちょっとここで一旦、セジョンさんの「トンネル」を。 12月に入ってから気付いたらこの曲を良く聴いてました。分かりやすく疲れてたのかもしれない。
KPopはどこへ行く
このような事を考えていた2019年の年末、私はいま自分が夢中になっているKPopというものが果たして持続可能な世界なのかということについて、小さな疑いを持ち始めています。
多くのメディアは今年を振り返る中で、BTSに代表される躍進や市場規模の拡大を称えるような論調が目立ちます。もはやブームではない、という力強い言葉も聞こえてきます。
しかし韓国のアイドル第一世代から数えたとしても未だに20年程度しか経っていないその歴史の短さを考えると、たとえ今の勢いがどれほどであっても、これから先もこの世界がこのままの姿で存在し続けるとは誰にも断言できないはず。
特に私はKPopの拡大し続ける勢いとは対照的な、その支え・地盤となる構造の脆弱さが気になっています。
例えば、一般的なポップ音楽ならギター1本、最近ならコンピュータ1台あれば世界中の誰もが曲を作り始めることが出来て、みんながそのジャンルを支える柱・地層となれる構造がある。
だから音楽を愛する仲間同士でバンドを組んだり、一人で曲を作ってネットに上げたりすることで、世界のどこからでもスターが生まれる可能性がある。
でも「KPopを作る」には、ある程度まとまった資力と組織、そして何より独特のノウハウが必要で、そうした条件を備えているのは世界中探しても韓国という小さな国の、その中のさらに狭いソウルという街だけ。
好きだからと言って誰でも作りだせるわけではなく、企業の綿密な準備と計画の末にしか生まれない結果がKPopであるとすると、ポップミュージックの一ジャンルでありながら、この構造は異質というべきだと思います。
更にアイドルというくくりで考えても、例えばAKBスタイルは中国を初めアジア各都市にそのフォーマットが輸出されて現地化に成功していますが、同じ事をKPopが出来ると想像するのはかなり難しい。
このように考えると、いま世界中で急速に拡大しつつあるKPopはとても巨大な存在に見えて、その足腰は意外にも細く、脆いのではないかと考えてしまう。
そしてアイドルに関する様々なニュースの相次いだ今年は、その構造を支える数少ない柱の中でも最も重要な一本である若いアイドル自身の身に何かが起こっていることを示していたように見えます。
SMにJYPにBigHitなど、KPop関連企業の成長と好調を伝えるニュースを聞くことが増えていますが、彼らが事実上支えとしているのが、結局は若く不安定なアイドルという人間の集まりであることを思い起こすと、KPopシーンは今喧伝されているほど確かな存在ではないようにも思えてくる。
輝かしい栄光の季節がかえって破綻の兆候を隠すということは良くある事で、まさにその一例を今年、私達はPRODUCEシリーズの没落という形で目にしたはず。
競争の激化が指摘されて久しいKPopの世界がこれから先も変わらず愛され続けるために、そろそろ業界全体で自分達の姿を省みる頃合なのではと、一人のファンとして強く感じています。
最後にロケットパンチ
以上長々と書いてきましたが、しかしこんな不安げな内容の記事で年内最後とするわけにはいかないので、唐突ですが最後に少しロケットパンチの話がしたい。
今年はTWICEの妹分ITZYだけでなく、Cherrt BulletにEVERGLOWやBVNDITといった期待の新人グループが数多くデビューしてKPopの活気を感じさせる1年でもあったと思います。
その2019年の新人という括りの中で私がいま一番好んでいるのが8月にデビューしたばかりのRocket Punch、元AKBの高橋朱里さんが加わった事で話題になったグループです。
ロケパンのどこが良いかと言えばパフォーマンスや舞台はもちろん、そこから離れたところで繰り広げられるメンバーの活気溢れる姿を挙げたい。
ビハインド映像にはマネージャーが顔出しで登場したり、動画配信中に姉グループであるLovelyzのユ・ジエさんが顔を出してくれたり、メンバーの6人だけでなく周囲を取り巻く環境まで前向きなオーラで満ちていて、見ていて幸せな気持ちになります。
そして、そんなロケパンを更に特別なものにしていると思うのが高橋さんの存在。
KPopの企画会社が日本の有名なアイドルをグループに加えるという事が、第一に知名度に期待してのことだったというのは間違いではないはずで、ニュースを聞いた当初は私自身もそれが大きな理由だろうと考えていました。
でも実際にデビューしたロケパンの高橋さんを見ていると、韓国側の事務所は最初からそれ以上のことを彼女に期待していたのかもしれないと思うようになりました。
というのも、彼女のアイドルとしての積極的な姿勢は、KPopという新しい環境の中にあっても際立って輝いてます。
何かあると「ダーヒョーン!」とか「ソーヒー!」と大声を上げて末っ子ラインにまとわりついていったり、リーダー・ヨニさんの物真似を披露して周囲を笑わせたりしてとにかく自分の周りをアイドルの空気にしてしまう。
まだ言葉が完全ではない中でも全く臆することなく、いつでもどこでも場を率先して盛り上げていこうとするその姿勢からは、年長であり既にアイドルとしてのキャリアを持っていた彼女が、グループにおける自分の役割をはっきり理解して行動していることが分かります。
私はAKBの総監督という立場が具体的に何を求められるポジションなのか知らないんですが、その次期候補だったと噂される彼女の韓国での姿を見ていると、何となく日本でもどういう所が評価され、周囲から何を期待されていたのかが想像出来る気がします。
高橋さんは国境を越えたアイドルとしての魅力や定義を分かりやすく表現してくれていて、おそらく今一番語られるべきKPopアイドルの一人だとも思えます。
そして彼女が知名度以上のものをチームに加えたことで、オーディション番組などを経ずに結成されたロケットパンチが、他の新人グループには無い特別な物語性を獲得することに成功したようにも感じています。
今年はアイドルをめぐって考えさせられることが多く、おまけにIZONEに関して色々あったりして、個人的に年の瀬にかけてのKPopシーンにかなり困惑を感じていたんですが、そんな自分にKPopアイドルのいる風景ってやっぱり良いなと思わせてくれたのがロケットパンチでした。
そういえばこの底抜けに明るいグループ名も最初聞いた時は何だと思ったけど、こんな内容の記事の中に置いてみると、確かに前向きな気持ちになる効果があるような気がしてきました。
アイドルの世界はこんな風に関わる人全てを幸せな気持ちにする力があり、その幸せになるべき人の中にはファンだけでなく、他でもないアイドル本人も含まれていなければならないはずだと、今は強く感じます。
あらためて、今年のKPopシーンは色々ありました。
この記事を推敲しているタイミングでIZONEの活動再開に向けたニュースが飛び込んできて、本当に最後のギリギリまで落ち着かない1年でしたが、もうすぐ迎える2020年は全てのアイドルとファンにとって、特に良い年になってほしいと思います。