猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

これはロックかもしれない。TXT「0X1=LOVESONG (I Know I Love You) feat. Seori」

KPopアイドルについてのブログを始めてから気づいたのが、自分はアイドルにも音楽にも詳しくないということだった。普通に考えるとこれは、音楽とは切り離せないアイドルについてのブログを書くにあたって致命的な問題のような気がする。

でも最初からそれを自覚してたらブログなんか始めなかっただろうし、その辺を何とかしながら3年以上続くことになった今にして思えば、時には物事をとりあえずで始めてみても良いのかもしれない。 

 

ただ一応、とてもありきたりなので趣味と言うほどでもないけれど、学生時代を中心に洋楽系のロックを聞いてはいた。しかしそうした音楽習慣とは時期もきっかけも大きく隔たったところで、アクシデントのようにKPopにはまった自分にとって、この両者は同じポップ音楽を扱っているにもかかわらず、そこにほとんど連続性を感じることはなかった。KPopに触れている間は、かつての自分にとって音楽とイコールだったロックについての感情や記憶を思い出すことはなかった。

ダンスミュージック中心で、しかも事務所による強力な指揮・統制のもとで組織されるアイドルグループと、良くも悪くも個人的で自由なロックバンドという現実の違いも大きかったかもしれない。でも世界中のありとあらゆる音楽的要素を参照しようとするKpopのどん欲な姿勢を考えると、この状況はすこし不自然でもあった。

しかしそれもこの曲を聴くまでのこと。

 

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混ざり合うはずのない感覚が時間をまたいで顔を合わせたような、聴いていてそんな気持ちになった。むかし聴いてた色々なバンドの名前を思い出しながら、これはKPopによるロックかもしれないと思った。

かもしれないというか、印象的なドラムサウンドが耳に残るこの曲は公式的にロックの要素を含んでいると公言されていてメディアもそのように評価している。だから正確に言うとこの感想はおかしい。でも自分は音楽面からの解釈というより、自分なりに思うところのロックな佇まいをこの曲に見た。

 

ロックは誕生から現在に至るまで様々な形に発展してきたので、音楽としてもバンドを中心とした現実的な在り方としても、人によってイメージするところが細かく分かれる言葉だと思ってる。

その上で自分が理解していたロックはといえば、卑小さと美しさという矛盾しそうな感覚を両立させることのできる音楽だった。

もうしんだほうがマシだとか、明日なんか生きられないみたいに、ちっぽけな自分にあえて目を凝らすように内省的な歌詞が、あのバンドサウンドと併走することで高揚感と疾走感を得る。するとやがて、そこで歌われる後ろ向きな心情とはまるで正反対の感情が立ち上がって来る。それは時に気高ささえ感じさせた。

そして今回TXTは、自分はもうだめだ、天国になんか行けないと歌いながら、それでも愛されることを願ってる。しかしそのように歌い、踊りながら葛藤を表現しつつも、その躍動する姿は見る者の胸を打つ。この美しい矛盾には覚えがある。

 

TXTはデビュー以来、グループの繊細なコンセプトを素直に表現して来たように思う。だから今回ロックの文法を用いたことは、一見すると思い切った跳躍に見える。でも個人的に理解してきたロックの意味からすると、今まで孤独や逃避を歌ってきたTXTがこうした方法をとったことは自然なことに思える。 

KPopがロックに触れたことで生まれた新しい感覚もあった。

ロック特有の粗暴さを表現するようにわざとノイジーに歌って見せたパートなどもよかったけれど、それとは逆に、この曲に美しい陰影を与えているSeoriの歌声がメンバーのパフォーマンスとシンクロした時に生まれた不思議な情景は、男性的な魅力を強調しがちなロックとは異なるKPopの在り方が、ロックと隣り合うことで改めて示されているようにも見えた。

 

ボーイグループ第4世代とされる若いKPopアイドルには既に大きな人気と実力を兼ね備えた面々が揃っている。本作はその一員としてのTXTをはっきり際立たせる意義を持ったと個人的には感じたし、更に言えばそうした枠組みを超えたインパクトがあったとも思う。

まだ2021年は半分も残っているけど、ブログ的には今年を代表するかもしれない一曲。KPopとロックの鮮やかな交差。