猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

ガルプラが始まる

来月8月6日の放送開始を控える韓国発のグローバル・ガールグループオーディション番組「Girls Planet 999」のシグナルソング「O.O.O」が先日リリースされた。躍動感にあふれた音楽は物語の始まりを予感させ、同時に公開された99名の参加者による舞台も華やかで、今から番組本編への期待を高めている。シーン黎明期よりその拡大を先導してきたエムネットが手掛ける、KPopの先進性と大衆性を2021年の今に示すステージの数々が期待される点、更に日中韓のアイドルをKPopの文脈でどのように束ねて見せるのかなど見所は多い。

 

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当然の批判

しかしその一方で、放送開始前から既に番組に対する冷ややかな視線が存在してることもこのプログラムの特徴と言えるかもしれない。

この「ガルプラ」が以前韓国で大人気を博し、やがて日本にも輸入されることになったオーディション番組「PRODUCE」シリーズの事実上の後継番組だというのは公然の事実。そしてその「プデュ」が人気の陰で数々の物議を醸しつつ、やがて番組側による順位操作という不正の発覚と、番組PDによる参加者事務所からの接待授受というスキャンダルによって非難の嵐の中を放送終了に追い込まれた、というのがまだ去年の話。そうした経緯から、エムネットという同じ主体によって似たような番組が再び作られたことを問題視する意見も多い。

  

更に言えば、いくつもの事務所を横断する大規模なプログラム(しかも今回は日中韓の三か国に及ぶ)の準備にはそれなりの時間がかかるだろうという一般的な予想と、2018年夏に放送されたPRODUCE48の構想がスタートしたのが早くも2016年のPRODUCEシリーズ初放送の頃だったという記事を読んだ記憶などから、おそらく今から二年前の2019年秋以降、まさに不正騒動の渦中にあったあの頃、すでにエムネは水面下でガルプラの準備を粛々と進めていた可能性さえある。

以上の経緯は個人的な推測に過ぎないけれど、今回のスケジュールは時間的に一連の騒動が裁判等において節目を迎えてからの動きだとは考えにくく、そのようにみると冷徹でビジネスライクな姿勢が際立つ。

 

しかし世間には未だにサバイバルオーディションに対する旺盛な需要が存在しているのも事実。アイドルとして一躍成功したい人、アイドルを送り出したい事務所、アイドルの夢を応援したいファン。それぞれが今なお魅力的なオーディション番組を求めている。そしてエムネがこれまで批判を受ける一方で、そうした願望にうまく応えてきた実績があることも確か。

ならば、これからのエムネに必要なのはプデュを通して受けた批判に応えるような内容の番組を作ることのはず。周囲の懸念にもかかわらず再びこうしたプログラムを開始したからには、その準備が出来ているのだと思いたい。

個人的には、番組への注目度や視聴率と、最終的に完成するグループのビジネス上の成否は厳密に関連しているわけではなく、あくまで要となるのは優れた舞台と音楽そしてメンバーのチームワークだと思ってる。だから今回は編集を通じてセンセーショナルな場面を演出したり、競争を煽って出演者に過度のプレッシャーを与えたりせず、一つのチームを作っていくという意思の下で番組を進めてほしい。

 

変化の兆し

そんなことを思いながら今回のガルプラに関する情報を眺めると、あきれるほどプデュ的要素を引きずっている一方で、今までとは違う取り組みを感じられる部分もあった。

それは例えばPRODUCE48出演済みのメンバーを再び起用してきたこと。私はこれを、彼らなりの過去との向き合い方なのでは、という風に解釈してる。そう思ったのは、そのように選ばれた一人がキムドアさんだったからでもある。

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彼女は3年前の放送当時に、番組側の編集次第で人気が左右されてしまうプデュの限界を指摘するような発言をして注目されたことがあった。つまりプデュに対して正面から物申した過去がある。その後惜しくも落選した彼女は元の所属事務所からデビューしたものの、グループは率直に言って低迷してる。そんな因縁を持つ彼女をエムネは再び選んだ。

更に今回のガルプラのもう一つの特徴として、CLCにCHERRY BULLET、FANATICSといったグループから既にデビューキャリアのある参加者を積極的に採用しているというものがある。

振り返るとPRODUCEシリーズを通してエムネは韓国内の若く有望なデビュー前の練習生を中心に光を当ててきた。しかしその現実は見方によっては彼・彼女たちのアイドルとしての限られたキャリアを、その新人ゆえの新鮮な魅力と共に、自分たちにとって都合のいい時だけ利用して来たようにも見えた。

でも今回の人選を見ると、エムネは競争激しいKPopシーンの中で惜しくも埋没してしまっている逸材を得意のオーディション番組を通して改めて見出すことで、これまでとは異なる方法で影響力を発揮しようとしているように感じられる。これについては多くの事務所がプデュ騒動で悪化したイメージを嫌って練習生を送るのをためらったのでは、という見方もあるけれど、自分は良い変化だと思ってみている。

 

新たな懸念

以上のように小さな希望を見出せる一方、日中韓に国籍を限定したうえで参加者を集めたオーディション番組という特徴から予想される新たな懸念もある。言語・習慣の異なる参加者を集めたことによる難しさもあるだろうけど、それより心配なのが各国ファンの間でナショナリズムに関わる軋轢が生まれる可能性について。

歴史認識や領土をめぐる対立を通して何かと気まずくなりがちな東アジア3か国の現状を考えると、視聴者の「我が国」のアイドルへの熱意が過熱して、そうした領域と関連付けられてしまうおそれはあり得ると思う。視聴者の競争意識をあおりがちな投票型オーディション番組の性質を考えると、さらに不安は増す。

特に自分は韓国から中国に向けられる視線が気になる。そこには日本へ向けられる批判的な眼差しとはまた違う独特の冷たさがあって、隣国とは海を隔てて位置する日本と違い、歴史を通じてずっと地上で隣り合ってきた経緯から来る様々な摩擦にその差が現れているのでは、と想像してる。

最近でも韓国で活動する中国出身アイドルによる、香港や台湾あるいは朝鮮戦争に関係した言動が韓国内で波紋を呼んだことがあった。そして今回、もうすでに韓国ネチズンは中国側参加者のSNSからそのような種類の書き込みを特定し始めている。

更に、もともと韓国で活動する中国出身アイドルに対するイメージも、いったん人気が出るとすぐ本国に戻ってしまう、という感じであまり良くはなかったという事情も思い出すべきかもしれない。

こうした韓国からの見方への中国ファンの反応も考えると、韓中ファンの間における葛藤が、番組の進行と完成したグループの一体性に与えてしまう影響が憂慮される。どうしても個々のメンバーが国籍を背負ってしまうプロジェクトの特性上、不測の事態に参加者が巻き込まれないよう、その予防策が今から徹底されていてほしいと思う。

 

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最後に

エムネットの主催するオーディション番組の功罪というものをそれなりに目にしてきた自覚はあるので、「GIRLS PLANET 999」を手放しで歓迎する気持ちにはなってない。

しかし今回エムネがやろうとしていることは、現状日本も中国も手掛けることのできない、2021年のいまKPopシーンだけが到達出来た段階を示す挑戦だと自分は理解している。その構想の大きさと難しさを思えばカルプラがどんな結末を迎えるのか、率直に言って興味がある。昨今の社会的な状況を考えると、こうした大規模なプログラムを遂行すること自体に大きな困難が予想されるけれど、番組が成功のうちに完走できることを願っている。