大規模サバイバルオーディション番組「Girls Planet 999」が韓日中からなる9人組ガールグループ「Kep1er」を結成して、終わった。
前作と呼べる3年前の「PRODUCE48」の時と比べて参加者の国籍が2から3に増え、その分だけ意思疎通の難しさなど困難も増すだろうことは予想された。番組を製作するエムネットにとっては不正騒動後初めての大型サバイバルオーディションで、しかもプロデューサーを始めとする中心人物が変わる新体制での製作だけれどプデュと比較されることは避けられない。
そんなこんなで上がったハードルを、ガルプラは華麗に飛び越えて大成功を収めることが出来たかと言えば全くそんなことは無く、葛藤は最後まで葛藤のままだった。
視聴者だけでなくエムネまでも振り回したかもしれない変則的な投票&選考システム、疑問の残った中国側参加者の扱いなど不満はいくつか思いつく中で、ここでは特に印象に残った事柄を書き残しておこうと思う。
疑念
日本からだけでなく中国からも多くの参加者を招いたことがガルプラの大きな特徴のひとつだった。慣れない環境の中でも物おじせずに自分の主張をはっきり掲げる彼女達の姿はガルプラを通して強い印象を残した。その点、総じて大人しい印象の強かった日本側参加者とは分かりやすい対照を作っていたと感じる。ただそのせいか不利な印象を押し付けられることが多かったのも彼女達だった。
その代表的な例として、中国から参加したヤーニンさんが初登場の舞台でCLC・ユジンさんを挑発して大きな反響、つまり彼女への非難の嵐を呼ぶことになった場面は、この番組を制作したエムネットの姿勢とも絡んでいまだに残る論点になっていると思う。
あのシーンは演出だったのではという疑惑がある。そういう流れがあらかじめ番組側から提示されていて、ヤーニンさんはそれに従っただけだと。そう疑われるきっかけになったのは番組からいち早く脱落した中国側参加者の暴露だったと記憶しているけれど、ヤーニンさんの挑発を敢えて引き出したきっかけがマスターの一人の「ではユジンさんに一言お願いします」というセリフのようなコメントだったという事実を思い出せば、その可能性はあると自分も考えている。※別の中国人参加者の暴露にはエムネもわざわざ反論しているのに、こちらの暴露に関しては今に至るまでスルーなのもこの疑いを強める。
幸いなことにヤーニンさんが無事に最終回まで残ったことや、本人の前向きな態度を見ているとあの一件の影響は表面上残っていないようにも見える。放送終盤では番組側が笑い話として蒸し返して見せたりもした。しかし韓国でアイドルになることを目指して来た彼女にとってあの一件はどう考えてもプラスに働く出来事ではないし、なにより自分が危惧するのは、SNS上の世界に対して彼女を攻撃するための口実を与えることになった点にある。あのシーンを捉えた放送回のYOUTUBEコメント欄はひどいものだった。
なぜ彼女があのような役割をあてられることになったのだろう。タフに見えるからだろうか、それとも中国人だからか。リアリティ番組内におけるセンセーショナルなシーンが招く視聴者の強い反応は、容易にネットでの苛烈な誹謗中傷に変化する。こうしてもたらされる弊害が出演者を現実に傷つける事態が恋愛リアリティを中心に世界中で続発したことは記憶に新しい。にもかかわらずエムネは2021年にもなる今、そうした現実に対してあまりに無頓着過ぎた。
当事者の二人の間にわだかまりはないとしても製作側からは事後的に説明があって然るべき問題だと今でも思っている。もし仮にあの場面が脚色のない事実だとしても、このような問題意識からすれば放送してしまったこと自体がエムネットに参加者を保護するための配慮が欠けていたことになり、いずれにせよ批判は免れない。
崩れる構想
推しへの投票を呼び掛けるために白熱するSNS、当落発表での劇的で残酷なコントラスト、その光景に一喜一憂する視聴者。エムネがプデュ的なものを手放せない理由も分からないではない。それでも変化が必要だった。しかし結果はどうだったか。
ガルプラはオーディション番組への信頼をいちど失ったエムネットが、似たような番組で出直すことの難しさを感じさせる結果になっていたと思う。プデュと台本は同じで出演者だけが変わったかのような工夫のない展開の連続は退屈を感じさせた。力を合わせて葛藤を乗り越えて舞台に臨む少女達の姿はいつも変わらず美しいけれど、番組が避けられなかったマンネリを打ち消してくれたかどうかは微妙だった。
加えて、これまでと差別化を図るためにためにわざわざ中国から参加者を招いておきながら、韓国偏重の投票配分により彼女達がまるで排除でもされるように順位を落としていく光景は傍から見ていて気分の良いものではなかった。
最終的に選ばれた中国人参加者はわずか一人で、しかもボーダーぎりぎりの9位。番組が当初目指したグローバルなガールグループを作るという理想が潰えて行く過程を、その当事者の無念とともに見せられるに至っては、ガルプラはその意味で失敗したと断じてもいいのかもしれない。
あとこれは必ず触れておくべき事だと思うのだけれど、有名男子アイドルを家族に持つ練習生や、KPopアイドルとしてほぼ一周したキャリアを持つ参加者の存在は、双方とも既存ファンダムの存在や知名度を期待できる点で、人気投票を柱とするサバイバルオーディション番組の公平性を歪めていたと思う。挑戦と葛藤を繰り返して視聴者に一から自分という存在を知らせて支持を集めるという、ほぼ全ての参加者が必要する一連の過程から、彼女達はかなり自由だった。韓国からの投票が強くなるよう設定された点数制度と組み合わさることで、この要素は最終順位に決定的な影響を及ぼした。
そして視聴者が特定の候補者を応援するように誘導される仕組みを持つ番組においては、自分の推し以外は自然とライバルになる。そんな状況でこのような競争相手が現れたとしたら、その人物に対して心理的な抵抗が生まれるのは自然な反応だと思う。本来ならデビューグループの結成でもってこうした構図はなくなって、ファン同士の対抗意識も解消されるのが通常だと思うけれど、今回の件に関しては分からない。
ガルプラを製作したエムネは過去への反省から不正を取り除く代わりに不公平を持ち込んでしまった。5回目にもなる視聴者投票形式のオーディション番組なのに、競争の公平を保つ上でかなり初歩的なミスを犯したように見えた。
最後に
何はともあれ「Kep1er」は誕生した。
これから少し先のKPopガールグループシーンを見渡してみると、11月には新たにサバイバルオーディション「放課後ときめき」が始まる。そしてスタシはアンニョンズの二人をデビューさせるし、来年に延びるらしいけど宮脇咲良&キムチェウォンを含む新グループがHYBEから出る予定もある。JYPだって早くもITZYの妹分を準備している。そういえばILAND2の報せもあった。
こうして書いてみると、Kep1erはちょっと大変な時にデビューすることになる。おまけにIZONEのように理想的な物語を作れたわけでもなく、fromis-9のように全く話題にならない放送を経てほとんどまっさらな状態からスタートするのでもない、それなりに注目を集めた上で複数の葛藤を残したままデビューとなると、その先行きは予想が難しい。
思い返してみると、国境を越えたアイドル志望者が集結して一つのグループを作るというガルプラの構想を初めて聞いたときは、そのエムネの意気込みにとても期待した。プデュの汚名をそそぐにはこれくらい理想主義的であっても良いと思えたし、東アジアで確執の絶えないこのご時世、アイドルというある意味空想の世界でこそ理想が描かれるべきだとも思った。
しかし志は美しくても現実はそうならなかった。このコロナ禍という状況下、大人数を集めて韓日中の3か国出身者からなるガールグループ結成を目指してきた「Girls Planet 999」は、その遠大なミッションを一応は無事に終了させたけれど、その後味は思いのほか苦かった。