猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

完成型が残す余地。IVE「ELEVEN」

12月1日に「ELEVEN」でデビューしたIVEが期待に違わない活躍を見せている。ガールグループとしてのデビューアルバム初動販売数で歴代一位、さらにデビュー七日後の音楽番組一位獲得も女子で歴代最速、そして主要音源チャートでも上位を維持することで、ここ数年のKPopにあっても特に成功した新人グループのスタートになった。

音楽としての「ELEVEN」について、個人的にはその分かりやすくはない独特の旋律に最初のうちは難しさを感じた。でも気づけばメンバーの魅力に惹きつけられるように繰り返し舞台映像に見入っていたので、IVEの6人に相応しい魅力を備えるよう特別に考えられた楽曲だったんだと今は納得している。

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そもそもIVEは、MONSTA Xや宇宙少女が所属していることで有名なスターシップエンタテイメントが5年ぶりに送り出すガールグループで、しかも今年の春に惜しまれつつ活動終了した期間限定グループIZONEの人気メンバー二人が加わっているということでデビュー前から注目の存在だった。

しかし期待が大きいだけ不安もあった。まずスタシという会社がいわゆる中小規模の会社でないにしてもHYBEやSMといった巨大企業とも異なる微妙な位置にいたことがその理由のひとつ。かつてSISTERをヒットさせて現在はMONSTA Xの頑張りが目立つけれど、世間的にはそこまで注目される事務所ではなかったと認識してる。にもかかわらず今回IVEにおいて独自性のある音楽と舞台で見事な結果を出したことは、単なるひとつのグループの好成績以上の意味を会社にもたらしたと思う。

 

あともう一つの不安、それは今年の春に活動を終えたIZONEの人気メンバー二人を擁しているという利点が逆に負担になってしまうのではという懸念の存在だった。

ここ数年のKPopシーンでは、オーディション番組を通して事務所の枠を超えて集められたメンバーからなる期間限定グループが大人気を博してきた。やがて彼らは人気の絶頂で活動期間を終えると元の事務所に戻り、改めてグループを組んだりソロになったりして、その後の音楽キャリアを模索することになる。

ところが、このような経緯で生まれた新人グループは期待通りに進まない場合が多かった。そこには純粋なプロデュースの質だけでなく、すでに人気と知名度を持つメンバーとそうでない同僚とのアンバランスがグループ内外で生む軋轢という独特の問題があるとされた。

IVEにおいてはアンユジンとチャンウォニョン、いわゆるアンニョンズの二人がそうした意味から注目される存在だった。このように期待と不安の視線が交差するなかで、スタシはIZONEの中でも特に高い人気を誇った彼女達に負けない存在感を持つメンバーを揃えて見せた。更に「ELEVEN」でそんな6人の魅力を音にした。

良いメンバーを集めて良い音楽をやるという誰もが分かり切っていたはずの解決策を現実に提示することで、プデュの開始以来KPopシーンに積み残されていた課題、つまり期間限定プロジェクトの特別な人気をその後のグループキャリアへどう還元するかという難題は、IVEにおいて一つの解答を見ることになった。

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こうしてIVEは素晴らしいデビューを果たした。しかしその一方では玉に瑕とも言うべき議論が囁かれてもいた。それはグループ初舞台でのウォニョンさんのダンスの質と態度を問うものだった。IZONEでセンターを務めて大きな知名度を持つ彼女が、IVEでも大きな注目を集める中で生じた批判だった。

IZONEを二年半追いかけてきた人間として、そもそもウォニョンさんがダンスの得意な人ではないという認識はあった。彼女の長所は優雅な動作と巧みな表情にあって、ダンスを通して強烈に自己を表現するのは不得手。その上で彼女が舞台上で問題を抱えているイメージは特になかった。けれどこの機会にIZONEのタイトル曲の舞台を注意して見返してみたところ、程なく今回と同じような指摘を招きかねない場面をいくつか確認することになった。

ただし一見熱心でないように見える動きの多くは彼女のフィジカルの特性から来るものであったり、あるいはカメラにフォ-カスされやすいセンターとしての自覚から髪型の乱れを嫌って頭の動きを控えめにする、といった事情が推測できるものだった。

そしてそのような傾向は批判を受けた「ELEVEN」の初舞台にも共通していた。つまり今回だけ特別な何かがあったわけではなく、彼女にとってはこれまでと同様の振る舞いだったと思われる。

改めて過去の舞台映像を眺めていると、彼女が最も得意にするのは自分を美しく見せるための所作だということが分かる。顔の表情から頭の角度そして肩の位置に至るまで気を配り、精緻に整えられた美しさを表現する時にその魅力は最大化する。そしてIZONEの12人体制はそんな彼女の長所だけを強調して見せることが可能だった。それが大人数グループならではの利点でもあった。

しかし今ウォニョンさんの周りに立つのは5人しかいない。しかも最年少として愛されていた当時とは違い、今は経験と存在感でグループを引っ張ることが期待される位置にいる。大きく環境が変わったにもかかわらず、彼女は以前と同様の振る舞いを続けることで異なる結果を招き、それが今回の議論を呼ぶことになったのだと思う。加えて、年が一つ違うだけのユジンさんがリーダーとして新たな重責を担うことで更に成長した姿を見せていることが、対照的なあり方として今回の事態を際立たせてしまったようにも感じた。

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ウォニョンさんがIVEでもセンターを務めることには十分な理由がある。上で指摘されていた点もその後の「ELEVEN」活動ではきちんと修正されてもいる。でもこうしてデビューが大成功したこともあって、ただでさえ注目を集める彼女への風当たりは今後も弱まることは無いと思う。そうした状況に個人の負担だけで対応させることが良いことなのかどうか。

大事なスタートということでIZONEでの実績を最大限生かした今回のプロデュースのやり方は自然なものだった。でも「ELEVEN」活動を二週間眺めていると、今後もそのバランスにこだわる必要はないように見える。このグループならメンバー個々の存在感を今よりもっと相対化させていく方法も可能であると思える。レイさんやイソさんが舞台で見せた大きな魅力は、このさき自然とそうなっていくのではという予感さえ感じさせていた。

見事なデビューを通して、成長型ではなく完成型であるという公式のアピールが単なる掛け声でないことを早速証明して見せたIVEだけれど、グループの本当の完成はもう少し先の将来、今とは少し異なった姿で実現するかもしれないと想像している。