デビュー曲「FEARLESS」と、続く「ANTIFRAGILE」の連続ヒットを通してHYBE初のガールグループとしての全貌が明らかになったLE SSERAFIMの登場は、今年のKPOPシーンを代表するニュースのひとつだった。そのデビュー前後に色々あったことについては以前の記事で触れてしまったので、ここでは純粋にLE SSERAFIMを見ていて感じる魅力について書いた。
IVEとIZONEにはアンニョンズを中心とした親和性があるとすれば、同じくIZONEの元メンバーである宮脇咲良&キム・チェウォンを擁するLE SSERAFIMはそれとは異なり、はっきり差別化を図って来たという印象がある。
たとえばビートに合わせて速く強く動くダンスパフォーマンスはアスレチックかつエアロビ的な規則性が感じられ、直線的な動きへの強い意識が伝わってくる。そこにはあたかも曖昧で幻想的な美意識を筋肉の躍動で弾き飛ばしていくとでも言うような気迫を感じる。
そして舞台衣装も動きやすさを追求するようなデザインのものが中心で、それは軽量化されているけれども露出というより機能的な意味を感じさせる。LE SSERAFIMといえばメンバーの個性に基いた「IM FEARLESS」という宣言めいたコンセプトが有名だけれど、おそらく外見的には健康美を表現するというテーマも並行して存在してる。
こうした魅力もさることながら、何と言ってもLE SSERAFIMが持つ最大の特徴は5人の個性が織りなすバランスにあると感じる。たとえばKPOPシーンで活躍するガールグループには象徴的なメンバーが存在していることが多い。IVEではウォニョンでaespaならカリナ、Red Velvetならアイリンというように。
でもLE SSERAFIMはそれぞれの存在感が拮抗してる。絶対的な存在が見当たらないという消極的な意味ではなく、5人の個性が思うがままに発揮された結果として綺麗な五角形を作った。
例えば日韓を駆け抜けるアイドル、宮脇咲良。
KPOPアイドルというのは第一に歌手だけれど、良い音楽だけをやっているだけではアピールできない固有の難しさもある中、舞台を降りたところでも個性を発揮することの重要性を彼女は教える。
それはトレーニングを通じてというより、主に日本での一筋縄ではいかないアイドル活動を通して実地で培ってきたもののはず。韓国に渡って日々アイドルとしての姿を更新し続ける彼女が歌う「馬鹿にしないで私が歩んできたキャリア」というANTIFRAGILEの歌詞は、音楽が止んだところでも響いている。
スター集団のIZONEでも高い人気を誇ったキム・チェウォン。
正統派アイドルとしてKPOPシーン屈指の可愛らしさに一層の磨きをかけつつも、LE SSERAFIMのリーダーとしてチームを引っ張るのは自分だという気迫が舞台映像から伝わって来る。チームが掲げる「IM FEARLESS」のメッセージを最も体現するのが彼女かもしれない。
そのような決意が感じられるにもかかわらず、いまだに一人だけIZONEとかWIZONEとか言い間違えることがあるのはちょっと面白い。
米国から来たジェニファーことホ・ユンジン。
良い感じにアメリカンでゴージャスな雰囲気を持つ彼女はグループに前向きでポジティブな勢いをもたらす。さらに作曲活動を通して自身の内向的な一面も臆せず表現することで多面的な魅力も披露する。彼女の経歴から伝わる地理的なスケール感が、そのまま内面にも投影されているようでもある。繊細さと力強さでもってチームを支える存在。
オランダから韓国へ。日本人バレリーナ、カズハこと中村一葉。
歌詞や振り付けにバレエの要素が印象的な形で取り入れられているように、その存在はLE SSERAFIMの舞台になくてはならないアクセントを加えている。日本、オランダ、韓国そしてバレエとアイドル。いくつもの境目を飛び越えて来た彼女は、その端正な外見と華麗な経歴でデビュー早々大きな注目を集めながらも、期待されるものはずっと大きい未完の大器。
そしてウンチェ。
以上の通り個性的なメンバーが揃うLE SSERAFIMの中で、ただ一人普通のアイドル練習生だった彼女は、ともすれば姉たちの陰に隠れてしまうおそれがあったはず。しかし現実には彼女がグループの切り札かもしれないと思わせる存在感で五角形の一角を成している。
MZ世代の感性というのか生まれつきの個性なのか知らないけれど、このグループにあって遠慮するでもなく、末っ子としての可愛げをアピールするでもなく、自然体でLE SSERAFIMの一員であることを楽しむかのような姿はとても印象的。
純粋に見てアイドルとしてのポテンシャルも高く、年末恒例の大舞台を通じて多くのコラボステージで名立たるアイドルと肩を並べていたけれど、ほぼ完勝していたように感じられたのはひいき目ではないはず。
LE SSERAFIMの魅力について喋ろうとすると自然メンバーの個性に話が移る。つまり各自の内面を語ることをグループのコンセプトとする、という選択は必然だったのだと思う。
デビュー前後にかけて慌ただしい経過を見せたLE SSERAFIMのメンバー構成は、色々あって、このように屈指のバランスを持つ5人に行き着いた。そのチームワークを見ていると、会社の相次ぐ不手際により発生&拡大した緊急事態を収めて前進することが出来たのは、いわば騒動の渦中へ巻き込まれた5人による結束力があってこそだったのではと思わせる。もしかすると「FEARLESS」「ANTIFRAGILE」の言葉が届いて響いたのは観客だけでなく、360度、彼女達を取り巻く全ての環境に対してだったのかもしれない。