韓国のニュースサイトで韓日の文化交流の水準が新しい段階に入っているという記事をよく見かけるようになった。
確かにドラマやKPOPが人気という消費者レベルの話から、地上波ドラマで日本と韓国の俳優が共演したり日本の映画監督が韓国の俳優を起用して世界に向けた作品を撮影するなど、日本国内において以前とは異なる深度の交流が始まったと感じさせる動きが目立っている。
一方の韓国では日本のアニメだけでなくポップ音楽も人気を得ていて、有名バンドの来韓公演も活発とのこと。「KPOPにない音楽的な多様性が魅力」という韓国ファンの言葉からは人気の理由の一端が垣間見える。こうした新たな文化交流についての見方は韓国メディアで共有されているようで、同じテーマで更に詳しい内容の記事もあった。
この一連の話題の中で特に気になったのが韓国を通じた昭和歌謡の再評価だった。たとえば6月の東京ドームで開催されたNewjeansのファンミーティングにおいて披露されたハニの「青い珊瑚礁」カバーはとても大きな話題となった。
松田聖子「青い珊瑚礁」(1980)は韓国で高い知名度を持つ岩井俊二の映画「ラブレター」の劇中において歌われた経緯から、その作風において岩井俊二の影響を強く感じさせるが決してそのことを公言することはないNewjeansプロデューサー、ミン・ヒジンもここから着想を得たと思われる。
しかし韓国においては一足先に日本の昭和歌謡が注目を集め始めていたので、ハニと松田聖子の組み合わせは必ずしもミン・ヒジンのアイデアだけで説明されるものではないかもしれない。
その動きというのは「韓日歌王戦」という、日韓両国の歌手が演歌や往年の歌謡曲で互いの歌声を競うというテーマで放送された韓国の歌番組のこと。好評を得て続編まで放送されたこの番組の中でも、アクターズスクール広島所属の隅田愛子(16)は近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」(1981)を歌い、その歌唱力と表現力で大きな注目を集めた。
昭和の歌謡曲が2024年のいま、こうして海を越えて新しい世代によって歌われて人気を博している光景はとても意外に感じられる。JPOPでもKPOPでも洋楽でも演歌でもない、歌謡曲というジャンルに存在する普遍性というものがあるのかもしれない。
それにしてもなぜ今韓国で日本の歌謡曲なのか。ちょっと前のシティポップ人気の流れを汲むのか、あるいは韓国におけるトロットブームの名残か。上の記事の中では、KPOPが大成功してグローバル化する過程で韓国大衆の嗜好を反映できなくなった事実が影響しているという指摘がなされている。
韓日歌王戦は韓国の放送で日本語の曲が歌われて現地の反響を得たという点で、日本の大衆文化が禁止されていた過去と比較してその意義を強調する声もある。これについては経済的に発展を遂げたことで、韓国社会がようやく余裕をもって日本と向き合うようになったからだとも説明されている。
なにはともあれ、個人的には最近のKPOP界隈で日本人メンバーは歌が上手くない、みたいな評価を目にする機会が多かったので、日本の歌手が韓国の聴衆の前で見事な歌声を披露している光景に多少は溜飲を下げることが出来て良かったと思っている。