この記事でとりあげるのは3月に活動していたガールグループ7組。まだなんとか桜も散ってない時期だけれど、2025年KPOP(女子)のピークは3月だったのではと思わせるほどカムバのラインアップが充実していた。
Hearts2Hearts「The Chase」
2月24日にデビューして3月中頃まで「The Chase」で音楽番組に出演していたHearts 2 Hearts。SMエンターテイメントがaespa以来となる4年ぶりに送り出したガールグループはナチュラルなKPOPで、コンセプトに奇抜さはないものの見ていて飽きることはなかった。
f(X)からRed Velvetそしてaespaと、文字で並べただけでも目がチカチカしてくるようなSMの先輩達と比べるとだいぶ落ち着いて見えるけれど、逆にその普通さに凄みを感じる。達人の構えには癖がないというような言葉があったような気もするし、アイドルとして自然体だからこそ出せる迫力があるのだと思う。
KiiiKiii「BTG」
デビュー曲「I DO ME」ではNewjeans以降に表れたKPOPシーンのトレンドに忠実なところを見せて、IVEの妹分として華々しく登場したKiiiKiii。個人的には後続活動曲である「BTG」のほうが、その奔放さがより強く5名の輪郭を際立たせていたと思う。
このKiiiKiiiというグループは、昨年来いまだに続くHYBE関連の騒動を思うと、本当に色々なことを考えさせられる存在でもある。
KPOPシーンの中であれだけの人気を誇った誰かの不在が、こうして急速に埋め合わされてゆくこのスピード感は、仁義なき戦いとか、生き馬の目を抜くとかそのようなものとは少し違う、まるでごく当然の自然現象のようにも見える。それは世の無常さえ感じさせるが、そこに誰かの悲哀を感じる暇は残されてない。
LE SSERAFIM「COME OVER」
昨年のHYBEを舞台にした一連の騒動の中で、ひょんなことからILLITの基本コンセプトを構成するキーワードとして「東京」という言葉があったことが明らかになった。
自分はそれを聞いてますますILLITを応援したくなったのだが、もし同じようにLE SSERAFIMを世界の都市で例えるなら、それはアメリカのどこかだと思う。「HOT」や「COME OVER」での、その開放的で奔放な魅力を見ているとそう感じる。
でもそうなるとHYBEアメリカからデビューしたKATZEYEとの境目が曖昧になって行く気もした。例えばKATZEYEにホユンジンが紛れ込んでても違和感を感じるかどうか。多分感じないと思う。
SAY MY NAME「ShaLala」
昨年10月のデビューから初のカムバを迎えたSAY MY NAMEの「Shalala」にはレトロな可愛らしさと清涼感があり、昨今の殺伐としたKPOPシーンに刻まれた傷跡を一瞬忘れさせれくれる。
前作と合わせて清潔感ある正統派アイドルスタイルというコンセプトを自分のものにしたSAY MY NAMEは、競争激しいシーンにしっかりと居場所を確保したように見える。こういう流行に左右されないスタイルを王道というのかもしれない。
izna 「SIGN」
今のKPOPシーンでiznaが他と違いを見せるのは、3分弱の音楽で一篇の物語を描こうとするかのような、イントロからページの一枚目を開き始めるかのようなロマンティシズムだと思う。デビュー曲の「izna」、「timebomb」から始まって今回の「SIGN」まで、そんな美学を強く感じる。
90年代のいつ頃だったか、始めて手にしたラジオから流れてくる名前も知らない洋楽に耳を傾けるのが幸せだった時期があった。「SIGN」を聴いていたらそんな日々の記憶が不意に蘇る。
STAYC「BEBE」
確かなプロデュースと魅力あるメンバーそして溌溂として音楽の組み合わせで、デビュー以来期待の新人として高い評価を得ていたSTAYCだったが、いつしか停滞感を漂わせるようになっていた。
2024年に発売された「Metamorphic」は初のフルアルバムだったものの、タイトル曲に対する好みが分かれ、何よりこのアルバム発売まで一年近い空白を開けてしまったことでファンダムの縮小を招き、前作比で販売量3割減という結果を招いた。
折しもKPOPシーンは第5世代と呼ばれるグループが注目を集め始めた時期で、STAYCが見せた伸び悩みは非常に間の悪さを感じさせた。
だからこそ今度のカムバは特に重要だったが、STAYCは「BEBE」において余裕さえ感じさせるパフォーマンスを通して、明らかに力を増した姿を披露することに成功した。現在のKPOPの世代感覚とは距離をとった、秩序と様式を感じさせるこのスタイルこそ、この6人に相応しいものに思えた。
スミンを中心にした端正なボーカルの魅力に対して、Jの低音がSTAYCの強力な武器になっていることがよく分かるカムバでもあった。
6月には東京と大阪で初のコンサートも予定しているとのこと。自分はデビュー当初に加入したFC更新を止めて随分経っていたが、今度のライブには足を運んでみることにした。
NMIXX「KNOW ABOUT ME」
2022年のエンミのデビュー曲「o.o」が分からなかった。聴いてると車酔いに似た症状になるという、何かの間違いのような曲だった。それ以後も度々個性的な曲を出し続け、たまに「DASH」のような分かり合える楽曲に出会えたかと思うと、再び「ビョルビョル」みたいな音楽で突き放しにくる。魅力の片鱗は感じるものの、自分にはそれが伝わり切らない、難しい存在だった。
そんなエンミが先日4枚目のEP「Fe3O4:FORWARD」発表と共にタイトル曲「KNOW ABOUT ME」を公開した。
「KNOW ABOUT ME」はエンミの理解しがたかった個性が再配置されて互いに調和することで、今までにない美しさと品格を生んでいる。メンバーと音楽の相応しい合致はグループとして明確に前進している事の証で、ここでは6人の輪郭が光を放っているように見える。
「o.o」においてその溢れ出る野心と才能の片鱗を見せるも、現実との間で齟齬をきたしていたNMIXXが、時間をかけてようやく自身と世界との間で和解に至ったのかもしれない。あの独特の個性を維持しながらこのように幅広い説得力を持った作品を作ってきたことは大きな注目に値する。
今回見て来た顔ぶれから伝わるように2025年3月は密かにKPOPガールグループの間で大戦が戦われた月だったと個人的に思っているが、もしそこでの勝者を選ぶなら、それはエンミだったと思う。