2018年現在のKPopアイドル(女子)にとって、「少女」というコンセプトは中心といっていいテーマです。
どのように「少女」の魅力を描き出してファンの支持を得るか、そのあり様でアイドルは実際のところ勝負を繰り広げていると言ってもいい。
ものすごく大まかにですが、そんなテーマを二つの類型に分けるとすると、まず最初に思いつくのはTWICEやGFRIENDに代表される素直で可愛らしい、恋する少女の姿です。
普遍的で魅力的なこの表現にはとても安心感があり、年齢を問わず幅広いファンが抵抗なく受けいれることが出来るコンセプトです。アイドルの正統的な姿としても捉えられていて、いつの時代でも人気があります。
しかしながら、多くのグループが選択するこの表現は非常に競争率が高い。そのうえ曲もパフォーマンスも似たようなものになりがちで差別化が難しく、よほど優れた作品を作らなければ見向きもされずに埋没する運命にあると言えます。
それに対して二つ目は、例えばレッベルやブルピンが示すような、たとえ恋に落ちても頬を赤らめるだけでは終わらない、良い意味で自己中心的な少女の姿です。
その強さと気高さで、特に同性からの支持を集めることが多いこのコンセプトは、しかし同時に、とてもコントロールが難しい。
楽曲はもちろんのこと、グループ全体のビジュアルイメージを含めてありきたりということが許されず、常に高い芸術的センスとバランス感覚が求められます。
このコンセプトで成功をおさめているのがほとんどSMとYGという巨大事務所だけという現実がその難しさを証明しているのではないでしょうか。
fromis_9は一番目の道を選ぶことを、昨年末の横浜アリーナで「glass shoes」を初披露して高らかに宣言しました。あの初舞台、右手を高く掲げた9人のキラキラした姿に私は感激して、その勢いのまま雑な記事をブログに書きなぐったのを覚えています。
今年1月末、fromis_9は正式デビューとなったファーストミニアルバム「To.Heart」で順当なスタートを切りました。派手さはないアルバムでしたが、fromis_9の始まりを感じさせるのに相応しい、爽やかな曲が揃っていたと思います。
そして二枚目となる最新アルバム「To.Day」。そのタイトル曲「DKDK(ドキドキ)」の曲名からも分かるように、彼女達は微塵の迷いも見せずに「恋する少女」の姿を披露しています。
上に書いたように、この華やかに輝いて見える道は、いざ歩こうとするととても厳しく険しい。上に挙げたトワイスとヨチンの二組を除けば、多くのグループは途中で足踏みすることを余儀なくされ、ほとんどの場合は諦めて去るしかない。
その困難な道のりを、fromis_9は「To.Day」で颯爽と走り出して見せた。それもこちらの予想をはるかに超える速さと強さで。
初恋の想いを、好きな人と手を取り合う瞬間を想像しただけで高鳴る鼓動に込めた「DKDK」。セブチやNUEST Wなどの曲を手がけるプレディスが誇る作曲家BUMZUと組んだ、「glass shoes」以来2曲目の作品です。
手拍子にも聞こえる軽やかなイントロにあわせてメンバーが弾けるように踊り始め、足でリズムを取るような振り付けに目を奪われてから、ベク・ジホンさんがキュートに寝っ転がるラストまでの3分間は、色とりどりの花吹雪が目前を通り過ぎたようにあっという間。これは一点の非の打ち所もなく輝く、正真正銘のアイドルポップ。
初々しい恋に浮き立つ心を全身で、表情で表現して踊りきる8人の姿は、個人的に言わせてもらえば、現世代KPopにおける爽やか恋愛路線での決定版に近い。曲の終盤に全員で飛び跳ねる振り付けがあるんですが、中途半端な曲でこういうことするとステージがわざとらしく見えてしまうリスクがあると思うんですが、この舞台だとすごく納得の振り付けだと思わされるところが凄い。
変幻自在のポジショニングでfromis_9の魅力と「DKDK」の世界を表現してしまう様子は、「可愛さ」に説得されるといった感じで、まさに私が好きになったKPopの光景でした。
他にも猫耳つけたナギョンさんの「虎に翼」的な美貌とか、衣装が普段着にしか見えないジホンさんとか、そういうところを挙げていくときりがない本作ですが、私が特に書いておきたいのはメインボーカルのチウォンさんの歌声でした。
もともと凛として美しい歌声が特徴のチウォンさんですが、「DKDK」ではサビの部分をどこか少女らしい素っ気なさを残しつつ、軽やかに歌い上げて強く印象に残ります。
そんな彼女の魅力を更に強く感じたのがアルバム収録曲「CLOVER」。こちらはヨチンの名曲群でおなじみイギヨンペの作詞作曲です。
「私が欲しいのは幸運じゃなくて幸福」と歌い、四葉ではなく三葉のクローバーのように、手を伸ばせば届く幸せを大切にしたいと歌うこの曲は、特にチウォンさんとハヨンさんのボーカルラインが決定的に美しい。
なんといってもサビの部分で繰り広げられる、ツインボーカルによる歌声のラリーは今回のアルバムのハイライトと言って良いかもしれません。二人の歌声とメロディが心地よく駆けるタンデムのように美しく響いた瞬間、KPop聞いてて良かった、としみじみ感じました。
正直に言うと、「glass shoes」のパフォーマンスで感じたスケール感は、この曲だけのものなのか、それともfromis_9のアイデンティティなのか、ファーストアルバムを聴いた後でもはっきりとは分かりませんでした。
可愛いいだけのアイドルグループは本当に多いです。
しかもKPopの場合、その上にアイドル一人ひとりのスキルがしっかりしているものだから、そんな彼女達が集まってそれなりの曲に合わせて踊れば、そこそこクオリティの高い作品が生まれてしまう。
しかもアイドルに肩入れしてる人間としては、彼女達がどれ程努力しているかも分かるし、忙しい時間の合間を縫って頻繁にファンとコミュニケーションを図ろうとするプロとしての姿勢にも頭が下がる。
そうするとファンとしての私には、いつしか「応援せねば」という義務感が生まれてきます。皆に愛される代表曲がいつかは生まれるだろうという、いつ満たされるかも分からない期待感をも梃子にした義務感。
そういう変な気を使うグループが段々と増えてきて、少々疲れも感じ始めた中で現れたのがfromis_9でした。もしかしたら彼女達もそんな多くいるアイドルのひとつになってしまうのでは、という懸念が実はありました。
でも「To.Day」を聴いた今になって思うのは、もうこのグループにはそんな気を使わなくて良いだろう、ということです。
まだデビューして半年にもならないfromis_9。客観的に見ると、今回のカムバックでは、まだ翼を広げて一度だけ羽ばたいて見せただけ、という控えめな見方も出来るかもしれません。
でも私は、その可愛らしく見えた羽が予想外に力強く、美しいことに驚いています。