今年も残すところあと少し。海外では干支の亥年をストレートにブタ年とか言うらしいですが、この記事ではKPopについて今年感じたことをざっとまとめてみます。
2018年この2曲
KPopアイドルシーンに対して特別何かを期待しながら迎えたわけではなかった2018年。しかし戌年が終わろうとする今振り返ってみると、fromis_9とIZ*ONEというふたつの重要なグループがデビューしたという、格別に意味のある年だったことに気付きます。
素人の偏見だと断った上で言わせてもらうなら、音楽的にもビジュアル的にも急速にアップデートを繰り返して洗練さを加え続けているKPopアイドルシーンの中にあって、今一番ピカピカなのがこの二組だと思います。
単純に今年デビューしたばかりということもありますが、この2つのグループはコンセプトが王道的で変なクセがない分だけ余計、その新鮮さと完成度の高さが分かりやすく際立っていると感じます。
加えて両者共に大企業CJグループの系列に新設された事務所・オフザレコード所属ということで、彼女達の躍進はBTSなどと共に、これまでの三大企画社を中心とするKPop勢力図に変化をもたらす動きのひとつと見ることも出来そうです。
そしてなにより、fromis_9「LOVE BOMB」とIZ*ONE「ラヴィアンローズ」の2曲は個人的に2018年を代表するパフォーマンスでした。
掛け値なしの可愛らしさを純粋かつ素直に表現する事でステージに感動すらもたらした「LOVE BOMB」と、壮麗で豪華な美しさに少しの物悲しさを織り交ぜた圧倒的なステージが最高のデビュー曲となった「ラヴィアンローズ」は、ガールズKPopの一番新しいページに載せるのに相応しい曲だったと思います。
純粋に音楽単体で見ると他のトップグループの楽曲が世間的に高い評価を得ているということも分かるんですが、ステージで大人数が音楽に合わせて動くことで表現されるKPopならではの総合的なパフォーマンスとして見たときに、この二曲が披露したものはとても素晴らしいものでした。
まさかの誤算、今月の少女
年の瀬のどさくさに紛れて触れておかねばと思っていた事がひとつあります。8月に正式デビューした「今月の少女」についてです。
6月にPRODUCE48が始まる直前まで、このブログでかなり熱を込めて記事を書いていたのが彼女達についてでした。「今月の少女がKPopの歴史を変える!」ぐらいの勢いで扱ってたような覚えがあります。
しかし結論から言うと、8月の「完全体デビュー」にはとても落胆しました。
一年以上の長きに渡る独特なプロモーションを通じて幻想的で奥行きのある世界観を構築し、その登場人物として唯一の存在感を発揮していた12人の姿はそこにはなく、ただ空疎な喧騒がステージの上で繰り広げられていただけ。
特別な魅力を持つと思っていた12人が、そこではただの可愛らしい女の子でしかなく、皆で舞台の上を右往左往しているだけのような姿は見ていて辛いものがありました。
新人だという事を抜きにしても、同時期にカムバしていた同じ大人数グループである宇宙少女との完成度の差は歴然としていて、それはあまりにも対照的な光景でした。
このプロジェクトの仕掛け人であるジェイデン・ジョン氏は以前のインタビューで「今月の少女は成長するアイドルだ」と述べていましたが、おそらくはこうしたグループとしての準備不足を確かに自覚した上での発言だったのではないかと、今となっては思います。
興味の薄らいだグループに対して殊更何かを書く必要があるのか迷うところもあったのですが、一時期は熱を込めて追っていたグループだけにその正式デビューについて一言も書かないのはブログとして誠実さを欠くと思ったので、年内ギリギリのタイミングですが触れておくことにしました。
世間的にも数字の上でもデビューは大成功だということになっていますし、それに新人なので次に期待というまとめ方も出来るのかも知れません。
しかしプロモーションを通して高められた期待とデビューステージでの現実の落差、そしてそれに伴う失望は大きかった。
続々と有望な新人が登場しつつある激しいKPopの世界において、今月の少女の存在感が相対的に小さくなっていく感覚があるのは否定できません。
厚みを増すアイドルシーン
今のKPopアイドルシ-ンを大まかに見ると、上に取りあげたような勢いのある新人グループと、先頭を独走するTWICE、そしてそのちょうど中間に位置するようなアイドルという構図が出来上がっているように見えます。
その中間層において個人的にミドルクラス御三家だと思ってるのがOH MY GIRL、
LOVELYZ、
そして宇宙少女。
以上の三組です。
これらグループはTWICEとほぼ同期でありながらその知名度には大きな差がついてしまってますが、それでも共に現世代のKPopシーンを引っ張っている存在だということは今年の順調なカムバの様子からも分かります。3組ともに音楽番組1位を獲得という嬉しいニュースもありました。
私はちょうど去年の今頃の記事で、こうした中堅クラスのアイドルがより人気を獲得して大きな舞台に立つところが見たい、というような大雑把な願望を書いていました。
あれから1年経って色々と知恵を付けた今思うのは、おそらくそうした劇的な展開は現実には望めないだろうなという普通の感想です。
KPopアイドルグループのファンダムというのものは、デビューしてから2,3年で大体の規模が決まってしまうという分析をどっかで聞いた覚えがあります。言い換えると人気のあるグループは最初から人気がある、みたいなことでしょうか。
その点、確かにこれらグループはちょうどそれくらいの時間が経ち、良くも悪くも人気が安定してしまった印象があります。順調なキャリアを積み重ねてはいるけれど、大成功ともいえない。TWICEやレッベルやブルピンなどが大きな舞台に登場したときに浴びる歓声が彼女達にはまだ多くない。
しかし私はむしろこうしたグループにこそKPopの妙味を感じるというか、良心を見る思いがあります。
実力や存在感、ステージの素晴らしさと言った点から見て彼女達とトップ層の間にそれほど大きな差があるようには見えませんし、なによりそれぞれが表現するところが違うので、売れる売れないのものさしで優劣をつけることにそれほど意味があるとは思えません。
そしてなにより一人のKPopファンとしての現実的な立場からすると、彼女達のような実力派アイドルとでも言うべきグループを1,000~2000人規模のライブハウスなどで見れるというのが嬉しい。
というわけで年明けにはおまごるのライブに行ってくる予定です。楽しみです。
IZ*ONEという挑戦
この間はるばるさいたままで出向いてMAMAを見てきた時、スゥウ~っていうラヴィアンローズのイントロが流れた瞬間の大歓声を目の当たりにして、「IZ*ONE、売れた」と実感しました。
来年にはますます活動を本格化させて、世界までも舞台にした活躍が期待されている彼女達ですが、少し乾いた言い方をすると韓国の大企業・CJとガールグループの日本における最大手・AKSが組んだこのプロジェクトは失敗を予想する方が逆に難しいともいえます。デビュータイトルが意味するバラ色の人生という言葉が全く誇張には思えません。
ただそれでも、一抹の不安を感じるところがあるのも事実です。
PRODUCE48の原案が両者の間で生まれたのは早くも2016年、PRODUCEシリーズが初放送されたのと同じ頃であるといわれ、そのころから日韓合同という性質から予想されるトラブルを避けるための入念な打ち合わせが繰り返されたそうです。
その甲斐あって番組は大成功しIZ*ONEは堂々と船出したわけですが、これからはそうした問題に最大限の注意を払いながら現実の活動を二年半も続けなくてはならないことになる。
日本の音楽市場におけるKPopの存在感を増すためにCJがパートナーとして選んだのがAKSだったというのは、当然彼らの日本における色々な評判を知った上でのことだということを想像すると、とてもビジネスライクで冷徹な判断だなと思います。
しかしこの効率に徹したように見える判断が、同時にKPopアイドルとして大きなリスクを背負い込むものであることは、先のBTSコラボ騒動やプデュにおける右翼議論を思い返せば明らかです。
そして韓国との関係だけではなく、彼らには日本国内においてもアイドルビジネスを通して女性を軽んじているという根強い批判が存在しています。
AKBの主要な顧客はこれまでのところ男性でした。そうした環境が上のような批判から実効性を奪うバリアの役割を果たしていたように思います。
しかし日本におけるKPopは圧倒的に女性に支えられた市場であり、IZ*ONEはまさにKPopアイドルグループです。さいたまスーパーアリーナで彼女達に向けられた歓声の種類からもそれは明らかです。そしてこの事実は日本における女性アイドルをめぐる状況にIZ*ONEが何かしらの影響を与える可能性のあることを予感させます。
主要顧客である男性ファンが持つ願望を少女達に歌わせて支持を得るという秋元式作詞法に代表される独特のプロデュース傾向は、アイドルという人間を他人の欲望の単なる器・望むままに動くだけの人形に堕する危険があることを、これまでのキャリアで示してきたことは否定できません。
しかしIZ*ONEがデビューステージで見せた姿はそうした受動的なものとは対照的でした。「ラヴィアンローズ」はその旋律・歌詞・ダンス全てから、幸せな人生は自分自身で導いてみせるという気高く前向きなメッセージを発していると私は感じました。
アイドルのデビュー曲というのは数多くある中の唯の一曲ではなく、そのキャリア全体を貫くグループとしてのアイデンティティに関わる宣言という性質をもつはず。
そうであるなら、日本側関係者がこれまで自分達がアイドルに対してとって来たような方法をIZ*ONEにまで当てはめようとすると、そこには大きな矛盾が生じることになると思われます。
前代未聞のグループであるだけにIZ*ONEは新たな局面を迎えた日韓のアイドルシーンにおいて、望むと望まざるに拘わらず、そこに関わる全ての人に新たな態度を要求し、その姿を映し出す鏡の役割を持つことになるのかもしれません。
そしてIZ*ONEの商業的な成功を予測するのは難しいことではありませんが、私はそれ以上のものがここから生まれる事を期待しています。
それが日本における、アイドルという存在に向けられる陳腐な視線に変更を迫り、シーンの内外に良い影響が生まれることがあれば素晴らしいだろうな、というのが私の新年に向けた希望です。