年の瀬にふと思い返してみると、本来なら今年はfromis-9や宇宙少女のライブを見に行くはずだったし、Rocket Punchだって来日してた可能性は高いし、何よりIZONEも大きなコンサートやっていたはず。そう考えると現実の2020年は通常のアルバムリリースやオンラインコンサートはあったにせよ、なにか大事な記憶を欠いた一年になってしまったような気がする。
もともと自分は現場に足を運ぶことに大したこだわりを持たない人間だと思っていたけれど、ライブ会場でステージと直接向き合うことから得ていたものの大きさに、今更ながら気付かされることになりました。
ただそんな一年でも振り返るべきことはあるし、将来に向けてKPopシーンには楽しみなことも多い、というわけでそのような事を書いた記事です。
新人賞的なもの
今年はKPopシーンでも様々な混乱が見られた一年でしたが、それでも終わって見ればSTAYCにaespaなど有望な新人ガールグループが順調に登場しました。
そんな2020年デビュー組の中で、特に新人賞的な存在感を感じたのは、いつもステージの上で机を並べ替えたり箱を転がしたりしがちな、短パン衣装多めのアイドルグループ・Weeekly。
2020年の音楽的な流行の影響もあったのか、個人的に目についた新人グループの多くが一歩引いたようなテクニカルなデビューコンセプトを選んでいたような気がする。
そんな中でWeeeklyが見せたひたすら明るく前向きなステージは、デビュー直後の今しか見せられない新鮮さと熱意、そして楽しさ可愛らしさだけでない周到な準備に裏打ちされたKPop特有の迫力を強く感じました。
彼女達が採用しているのはガールグループとして王道的かつ古典的手法といっていいコンセプトだと思いますが、真剣に工夫を重ねる限り古典というのは決して古びないということを、その溌溂としたステージは教えているようです。
セカンドまで出ているミニアルバムも聴きやすくて耳に残る曲が多く、とても丁寧にプロデュースされている印象です。同じ事務所の先輩であるAPINKのように、長く愛されるグループになってくれればと思います。
インフラとしての音楽番組
KPopグループと言えば、既存のマスメディアであるテレビの限られた時間と空間に依存して知名度を獲得していくのではなく、ネットの動画共有サイトというフロンティアを積極的に活用してファンの期待に応えてきた姿が特徴的だと思います。
あのBTSでさえも今なお独自コンテンツの配信や個人放送を頻繁に行っていて、その地道にファンに向き合おうとする姿勢は音楽やパフォーマンスのクオリティ以外の面からその大成功に対する説得力を与えているように見える。
しかしやはりそれだけではなく、KPopの人気にとっては従来のメディアであるテレビ放送が用意する音楽インフラの存在感も同じくらい重要だったと感じます。
新曲と共にカムバするたび、ほぼ毎日のように放送される音楽番組が届ける華麗なステージ映像と、そこから派生的に生まれる個別ファンカムや舞台の俯瞰映像といった映像コンテンツの数々が、そのアイドルの魅力を世界中のファンに届ける上で大事な役割を担って来たことは間違いない。
この、テレビにより提供される重要な「音楽インフラ」に関して、日本のKPopアイドルグループとしてデビューしたJO1が思うように音楽番組へ出演できなかったという事情との関係で、その日本における存在の貧弱さを意識させられたのも今年でした。
そもそも日本ではアイドルのファンカムどころの話ではなく、音楽番組の数や内容ともに非常に物足りない。しかもそこへ出してもらえるかどうかという、素人にはよく分からない業界内の駆け引きが加わり、更には出たところで与えられる時間も少なかったりする。
対照的に韓国では無名事務所からデビューしたばかりの新人にも出演の機会が開かれていて、しかも持ち歌をフルで歌えるところなど、まさしく歌番組がポップ音楽シーンのインフラの役割を果たしていると感じます。
日本でも40年ほど前には音楽番組が各放送局で並び立つ時代があったと聞きます。でも現在のようにクイズ・雑学・芸人みたいな状況になっているのには、視聴者の反応を考えたそれなりの事情があってのことなのかもしれない。
そのような民放の状況にはそろそろ変化が必要だと思いつつも、一方で気になるのがNHKの存在です。
その時々のニーズの変化にとらわれない価値を持つ番組の作り方が、公共放送という存在には期待されているはずで、その代表的なものが国会中継だったり相撲だったりドキュメンタリーだったり、あるいは流行からは外れたチョイスの映画放送なのだと思います。
そうしたものの一つとして、私は正統派の音楽番組を登場させてほしいと思う。現行のNHKの歌番組である、月一でわずか30分のシブヤノオトでは到底足りない。実力と可能性があれば事務所の大小やそれまでのキャリアを問わずに出演可能で、一曲丸ごと歌うことが出来て、そして懐古的な音楽特集やMCとの気まずい絡みもない、世間に対して新しい歌と舞台を届けようとする歌手そのものが主役になれる、そんな番組が見たい。
こうした話はなにもアイドルに限ったことではなく、コロナのためにコンサートもライブも出来ず苦境に陥っているミュージシャンやバンドが多いと聞く今だからこそ一層、音楽と聴衆を繋ぐインフラとしての歌番組が、テレビには求められていると感じます。
2016年の光景を再び
最後に、今は2020年の終わりだけど2016年の年末の話がしたい。
私がめでたくKPopと出会ったあの年の冬は例年になく特別な時期だったと今でも思います。OH MY GIRLの「CLOSER」と「一歩二歩」でKPopアイドルの美しさと迫力に触れ、そのままYOUTUBEに溢れる音楽番組のステージ映像や、二倍速ダンスで盛り上がる週刊アイドルのようなバラエティ番組を通じて男女問わず多くのKPopアイドルを知り、PCモニタの前でひとり静かに新しい世界が目の前に広がっていく興奮を感じていた。
そんな2016年の終わりと2017年の始まりの間で繰り広げられたひとつのステージは、自分がKPopを見つけたことの意味を象徴していたように思う。
アイドルグループの新陳代謝が活発なKPopシーンでは世代論のような議論がなされることがあって、そこでは単純にデビュー年次という数字以外にも、どのような判断基準を持ち込むかで結論に違いが生まれたりするようです。
しかしこの2016年末のKBS歌謡大祝祭のステージでTWICEにRed Velvet、GFRIENDそしてI.O.Iまでが並び立った光景は、KPopガールグループにおいて第三世代と呼ばれる時代が始まったことを高らかに宣言していて、そこで歌われてるのが第二世代の旗手である少女時代の「また巡り逢えた世界」だというのも象徴的でした。
そしてここには出演していないけれど、この頃にはOH MY GIRLにLOVELYZにAPRILも頭角を現し始めていたし、何よりBLACKPINKが鮮烈なデビューを果たしたのも、この年の夏。
私は、この4年前のような光景がそろそろ新しい世代で繰り返されることを期待しています。ITZYや(G)I-DLEそしてIZONE、fromis-9にRocket Punch、EVERGLOWも。更に今年はSMからaespaが登場し、来年にはBig Hitがガールグループを予告していて、YGにはBLACKPINKの妹グループの気配もある。
役者はそろい始めていて、間違いなくその舞台は近付きつつある。それが来年になるのか再来年になるのかは分からないけれど、今はその時を楽しみにしながら待っていようと思います。