猫から見たK-POP

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エンドロールにはまだ早い。IZ*ONE「Panorama」

韓国の大人気オーディション番組を通じて、二年半という活動期間のグループとして結成された韓日合同KPopガールグループ・IZONE。デビュー以来加速する人気の中で先頃二周年を迎えた彼女達の、5枚目のアルバムとなる「One-reeler Act Ⅳ」が12月7日にリリースされた。

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そのタイトル曲である「Panorama」は気品と躍動感を劇的な展開の中で織り交ぜながら舞台を高揚させていく、IZONEならではのポップ・ハウス。

実際に活動している人数としてはKPopガールグループで最多となる12名のメンバーを擁しながら、それぞれの個性を生かしつつ、同時に華やかな群舞を通して個の集合としての魅力も表現するという相乗効果で舞台を目まぐるしく彩る本作での姿は、IZONEがこれまで二年のキャリアを通して変わらず表現し続けて来たもの。

更にアイドルとしての高い魅力を持つメンバーの存在だけでなく、音楽や振り付けにMVといった、今を時めくKPopにおける上質な表現を可能にする才能がIZONEの名のもとに集合した事実を示す一つの指標、それが「Panorama」だった。

 

ただ、今作は上記のようにも説明できるけれど、一人のファンつまりWIZONEとしては冷静に眺めることが難しい作品でもあった。というのも「Panorama」は、IZONEを結成の瞬間から今まで逐一追いかけてきた人間の感情を揺さぶる意図を隠そうとしない。

期間限定のアイドルグループが「短編映画」を意味する「One reeler」という名のアルバムを発表すること。そしてそのタイトル曲も「Panorama」という名前で、これまでの歩みを全景(パノラマ)として捉えようとしていること。この二つからだけでも、その意図しようとするものは明らかだと思う。

歌詞もまた同様に「伝えきれなかった私たちの話」や「悔いが残らないように」、「永遠に記憶していて」など、儚い何かを示唆している。

しかもMVでは花びらが散って舞い落ち、12人が立つのは誰も居ない劇場。皆一様に憂いのある表情を浮かべ、ダンスシーンを除けばそれぞれが同じ画面に収まることも稀。あるいは同じ場所に居ても視線を合わせることはない。更には焦点を失い、急速に薄らいでゆくメンバーの姿までも映す。そして終盤、皆が階段に集まり、何かの記念のようにカメラを見つめる。

このように多くの要素が疑いようもなく一つの方向を指し示していて、でもたぶんそれはファンのひとりとして自分が望んできたものとは違う。 美しくあればあるほど、受け入れがたいものを突き付けられた気さえした。

 

ところが、実際のステージにおけるパフォーマンスを眺めるうちに、MVに対して抱いたものとは異なる印象を持つようになった。溌溂と躍動する12人の姿は見るものの胸を打ち、それは感動的ではあっても、感傷的なものではない。

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確かにこの曲がIZONEの集大成を意味するものであることは、デビュー以来IZONEのグループコンセプトを決定づけた花三部作のシンボルとなるポーズを取り込んだ振り付けによっても明らかになっている。

そうした分かりやすい工夫だけでなく、ラヴィアンローズの優雅な佇まいに、ヴィオレッタの不穏で危うい美しさ、フィエスタの華麗な雄大さ、そして幻想童話の猛々しさを「Panorama」の中に見出すこともできるかもしれない。IZONEのこれまでの全てを音楽に込めたとも感じられる。

それでもこの曲は未来を向いている。MVで演出される儚さとは異なり、12名全員が自信に満ちた姿で一歩前へ踏み出しているというのが、舞台を通して見た自分の感想だった。そしてそのことを一番強く印象付けたのが、満を持してラストに登場したウォニョンさんの存在だったように思う。

 

そもそも「Panorama」の終盤は圧巻に圧巻を重ねるような怒涛の展開だった。後半まで順調に進行してきたステージは、一旦チェヨンさんのパートを境に落ち着きを見せたあと、ユリの独唱と、それに続く宮脇さんの「イジェカチナラガ」をきっかけに文字通り飛翔する。

力強いユリの歌声と交差するようにチェウォンの澄んだボーカルが響き渡ると、間髪入れずにイェナが中央で目の覚めるようなターンからのダンスを決めてステージを揺らす。一瞬柔らかなミンジュのパノラマポーズが挟まれた後、リーダーであるウンビが中央に登場し、舞台全体を押し上げるような存在感を見せつける。

彼女が扇の要のようにIZONEを束ねた時、舞台は限りなく完成に近づく。しかしこの時すでに圧倒的な高揚感に包まれたステージの最後、まさに土壇場でセンターに進み出たのが、IZONEの末っ子であるチャン・ウォニョンだった。

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彼女がいわゆるグループの「センター」であることは、これまでも一目瞭然ではあった。その持って生まれた華やかさでステージの要所要所、ここぞという時に文字通り舞台の中央に立って視線を集めてきた。

一方でそのアイドルとしての魅力の生かされ方は純粋にその美貌であり、あるいは一瞬の表情演技の巧みさであり、つまり安定したアクセント的な扱いが多かったように思う。

それが今作では最後、「幻想童話」の時のようにウンビで終わるかと思われたステージの中央に颯爽と現れ「刹那の瞬間思い出して。全部見せるわ。永遠に記憶しててね、約束よ」と、甘く透き通るような高音で一節を歌いきり、3分40秒の曲を終える。

上記のMVの内容などから、ともすれば感傷的に捉えられもする本作が、このように挑発的なボーカルを披露するウォニョンさんの強い印象と共に締めくくられる舞台映像はとても示唆的だった。

チャン・ウォニョンという誰が見ても分かる逸材、しかしその明らかな将来性ゆえに軽率な扱いは許されない、そんな彼女に「Panorama」のイメージを左右する重要な役割を託した作り手の判断を想像すると、この場面の重みは増す。果たしてここで記憶していてと歌われる対象は過去の懐かしい思い出なのか、それともこれから描かれるべき将来の光景なのか。未来形で語られる歌詞だけでなく、私は彼女の意味ありげな表情と歌声からもその答えを推測する。

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IZONEはその順調に見えたキャリアの途中で思わぬ混乱に巻き込まれ、グループとしての存在さえ否定されかねない逆風を受けることになった。それは今なお完全に止んだわけではない。

そんな彼女達が今「Panorama」という曲の中でこれまでのキャリアを全て織り込んだ集大成を試みて、その結果素晴らしい舞台を披露して見せた姿からは、自分達の今までとこれからを肯定して前へ進もうとする意気と、勇敢さを感じた。 

私は今から二年前、IZONEのデビューに合わせて書いた記事で「ラヴィアンローズ」を新たな女王の戴冠式に例えた。あの時の感想になぞらえるなら、当時とは異なる様々な視線や言葉の飛び交う葛藤の末に彼女達が見せた「Panorama」の勇姿には、凱旋という言葉が最も相応しいように思う。いま立っているその輝かしい舞台こそが12名の居るべき場所で、そこではIZONEがIZONEであることをためらう理由など微塵もない。彼女達は今回、自分自身の力によってそのことを証明して見せた。