猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

IZ*ONEは2つの人生を生きられるか

先日発表された、AKB高橋朱里さんのウリムエンタテイメントへの移籍&新グループへの加入というニュース。

news.kstyle.com

目が醒めるような驚きを感じると共に、プデュ48の放送終了後、こういう動きをなんとなく期待していたことを思い出しています。

それがまさかこんな鮮やかな形で実現するとは。

ウリムエンタといえばINFINITEやLovelyzといった所属グループの存在感から窺えるように、とても堅実で誠実なアイドルプロデュースに定評があり、悪い意味での派手さとは無縁の、中規模だけれど優良なアイドル事務所という印象があります。

そんな彼らが高橋さんに声を掛けたということは、決して日本の現役アイドルの参加というセンセーショナルな話題性だけを狙ったものではなく、彼女のアイドルとしての姿勢・ポテンシャルそして何より人間性をよく吟味してのことなんだろうと想像してます。

そんな事を考えるのは、今回の知らせに触れる直前、偶然にも以下のインタビュー記事を読んでいたからでもあります。

 

gendai.ismedia.jp

質問の意図を理解して的確に答える姿から窺える賢明さと共に、彼女はPRODUCE48から多くの刺激を受けて、この時すでに日本のアイドルにありがちな枠から抜け出そうとしていたことを感じます。その後の展開を知った上で読むとなおさら意義深いインタビューです。

高橋さんがプデュで韓国国内の人気を得た理由として、番組を通して披露されたアイドルとしての姿と、韓国語を始めとする韓国文化への親和性・積極性があったことは容易に想像できます。

しかしインタビューに臨む彼女の姿からは、彼女自身がはっきりとアイドルとしての自分と向き合い、これから本当に進むべき方向を考え始めていたことが分かります。

始めに声をかけたのは韓国側だったと報道にはありますが、プデュ48をきっかけに新たなアイドルとしての理想を探し始めた高橋さんと、2014年にLovelyzをデビューさせてそろそろ次のガールグループを送り出す時期に差しかかっていたウリムエンタテイメント、その両者のタイミングがかっちり噛み合ったのが今回の移籍劇だったように思います。

それにしても、高橋さんという現役ど真ん中の日本のアイドルが、韓国の第一線で活動している芸能事務所の次期アイドルグループのデビューメンバーとなるというのは、控えめに言ってもわりと画期的なことだと感じます。これはアイズワンの3人とも似てるようでかなり違う、日本のアイドル全体にこれまでにない影響を与えそうな動きだと思われます。

進化するKPopの隣で

世界的にKpop人気が高まっている昨今ですが、私は今回の移籍劇をそのKPopが中心となって起こしてきた変化の一環だと思っています。

例えばこの大きな動きの中心にいるのは間違いなくBTSだと思いますが、彼らの活躍は単純にグループとして凄いというだけの話ではなく、そこにはアイドルという言葉の可能性を広げたという意義もあるのだと感じています。

アイドルはアイドルという姿のままでも音楽の世界のメインストリームに躍り出て最高の評価を得る事が出来る、ということを明らかにした功績はとても大きい。

ここで強調したいのは、これがBTSだけで成し遂げられた功績ではなく、一朝一夕の事でもなく、10年以上に渡ってKpop全体が貪欲に新たな姿を模索し続けてきた無数の努力と挑戦の結果ではないかということです。

そして今回ウリムエンタテイメントは、日本の現役アイドルを会社の将来を担うグループの一員として迎え入れるという決断をしました。

ここには、日本のアイドル要素を真正面から取り込み始めた象徴的な意味合いがあると共に、上に挙げた変化し続けるKPopシーンのダイナミズムの新たな表れのひとつでもあると感じています。

しかし一方で気になるのは、このように「アイドル」という言葉が常に更新され続けているKpopシーンのお隣で、日本のアイドル業界がどのような反応を見せるのか、あるいは見せないのかという点です。

果たして何かの刺激を受けて日本のアイドルシーンに新しいものが生まれるのかどうか。上記記事においても、インタビュアーの方がAKBグループからのKPopユニット誕生を期待されています。

残念ながら今の段階では私はそのような展開ついてあまり楽観的ではありません。

そう思う根拠として、他でもないIZ*ONEが見せている日本活動があります。私はここに日本のアイドル業界の停滞を感じました。

 

IZ*ONEというか、SUL48

最近、KPop世界化の兆しとても言えそうなニュースが続いています。

例えば上海に本拠を置くSNH48から生まれたKPopユニット「7SENSES」がつい先日果たした韓国デビューや、韓国とアメリカのアイドル&アーティストが組んだスペシャルユニット「K/DA」が見せた昨年11月の大ヒット。

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この両者に共通するのは、KPopというものをひとつの型として捉え、韓国の外からの視線によって解釈されたKPopという性格を持っていることだと思います。

つまりKPopがひとつの音楽・芸術ジャンルと見なされ、他文化圏の人々によって表現され始めている。かつては日本独自の武術だった柔道が、今では世界中で競技として行われている、そんな関係に似ています。

このような流れの中で、私が一番期待していたのが他でもない日本というか、もっと具体的に言うとアイズワンにおいてでした。

番組の放送が終わると同時に生まれたIZ*ONEは「ラヴィアンローズ」で華やかなデビューを果たし、期待に違わない姿を現しました。しかし一方ではまだ伏線を残すグループでもあったと思います。

それは、IZ*ONEが持つ日本のアイドルシーンとの密接な関わりという特徴が、一体どのように作用するのかという点です。

つまり日本側がIZ*ONEをどう解釈・表現するのか。2019年のKPop全盛の時代にあって、日本でアイドルプロデュースの最前線に立つ人々が、12名からなるKPopアイドルグループを通して見せる姿勢が問われていたといえるかもしれない。

そのような期待が高まる中でついに先日、日本デビューに合わせて4曲ものオリジナル曲が発表されたわけです。

そこで私が感じたのは、これはIZ*ONEではなく、韓国・ソウルの48グループつまりSUL48とでも表現したほうがいいのではないかというものでした。

 

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IZ*ONEであるということ

始めに断っておきたいのは、一連の曲自体はそれなりのクオリティーがあったということです。

しかしその一方で私が感じたのは、IZ*ONEが敢えてあのような曲を歌うことの意味についてでした。

彼女達のアイデンティティーといえば、それはプデュ48という激しく美しい誕生の物語を経て、デビュー曲「ラヴィアンローズ」と1stアルバム「COLOR*IZ」で華々しいデビューを飾ったKPopアイドルグループだということについて異論はないと思います。

彼女達はKPopアイドルを目指して誕生の物語を戦い、そして結成されたチームです。そんな12人の姿に日韓問わず観衆は大歓声と祝福を送ってきた。

TWICEやBLACKPINKなどと良く似た、女子中心の人気&SNSを通して日本デビュー前に高い知名度を持っていた、といった特徴からもファンがアイズワンをKpopアイドルだと認知していることは明らかだと思います。

だからこそ、日本に来た途端に当たり前のように48風のアイドル曲を歌っているという光景には強い違和感を覚えた。

よりにもよってアイズワンと共に仕事をする人達が、彼女達がKPopグループとして誕生したという経緯と、そこに声援を送ったファンの期待、つまりはアイズワンを巡る世界全体を軽視しているように感じたわけです。

こうした光景とは対照的だということで思い出したのが、RedVelvetやGFRIENDといった先輩グループが発表してきた、日本語で歌われる日本オリジナル曲でした。

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「#cookie jar」や「memoria」など、いずれも日本語で歌われた日本オリジナル曲でありながら、それぞれで表現される姿は彼女達が韓国内で見せる姿と少しも違わない。

例え日本活動曲であってもグループの中心的コンセプトに変更を加えず、日本語で歌われた曲でありながら日本だけでなく韓国含め海外のファンまでも納得させる。これはあまりに当たり前の話だと思います。

ところがアイズワンは少し様子が違いました。

日本の48グループがこれまで何回も好んで用いてきたコンセプトを2019年の今、あの12人に繰り返させる意味は一体何なのでしょうか。

日本デビュー盤は確かに売れ行き好調のようです。しかし、その原動力となった人気はプデュ48と「ラヴィアンローズ」で見せたKPopアイドルとしての大きな存在感であることは否定できないのではないと思います。

そうした前提を考えると、今回の日本デビュー曲は日本側関係者が他人の褌で相撲をとってしまったような、ぎこちない印象さえ受けます。

 

見習うべき勇気

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「人は2つの人生を同時に生きることは出来ない」と言ったのはアーサー・モーガンでしたが、もしかするとアイズワンはこれからの2年間、日本と韓国で交わる事のない2つの姿を並行させていくのでしょうか。

私はこうした曖昧な姿勢がアイズワンにとって足かせとなり、彼女達が度々目標として語るグローバルアイドルグループという言葉をただの掛け声にしてしまうのではないかということを恐れています。

彼女達に与えられた期間はたった2年。高い目標を掲げるならば、今回のように豪華な余興とでもいうべき日本活動を行う余裕がこれからもあるのかどうか。日韓両国で成功するだけなら、それは普通のKPopグループでしかない。

それでも上で触れたように、私は日本と韓国という二大アイドル文化の接触から生まれる新しい何かをアイズワンの日本活動には期待していましたし、それをまだ諦めたわけではありません。

このように記事を書いている途中で、竹内美宥さんのミスティックエンタテイメント移籍までもが発表されました。新しい大きな流れが出来つつあるのを感じますが、そのきっかけがPRODUCE48だったことは明らかです。

そしてあの番組に参加した全ての日本人参加者に共通していたのは、Kpopアイドルという日本のそれとは似て非なる世界へと、勇気を持って挑戦した姿だったと思います。

その結果としてアイズワンの三人や高橋朱里さん、竹内美宥さんなどは大きな変化を遂げ、あるいは遂げようとしています。その果敢な姿勢は彼女達の魅力を新たにし、今までとはまるで違う種類の歓声を呼び込むことに繋がっています。

余談ですが、私は宮脇さんや高橋さんが「同性である女子から声援を受けること」についての新鮮な驚きを語る姿になぜか惹かれます。新しい挑戦が自分でも気付いていなかった魅力を引き出すことに成功したという光景には、部外者までも感動させる何かがあるようです。

このように日本のアイドル達は変化を恐れずに挑戦し、新たに素晴らしい姿を披露する事に成功しました。ならば今度は、日本でアイドルに関わる大人が、彼女達を見習ってその背中を追うべき番なのではないでしょうか。