2月17日にリリースされたIZ*ONE初のフルアルバム「BLOOM*IZ」。
記録的な大成功を収めた本作は、グループの窮地からの復活という意味も持つことで、とても意義深い作品になりました。
発表からひと月以上経った今ではその反響も落ち着いた頃かと思いますが、この記事ではアルバム全体を通して感じたことを今更ながら書いています。
自分が「BLOOM*IZ」を通して一番強く感じたことを最初にまとめておくと、それはメンバーのボーカルの魅力、特にユジン&チェウォンという二人の歌声の再発見でした。
今回のアルバムの分かりやすい特徴といえば、それは12曲も収録したグループ初のフルアルバムだということと、韓国本国の作品としては初めてユニット曲を複数採用したことだと思います。
前作「HEART*IZ」では、日本版ではユニット曲だった「猫になりたい」「ご機嫌サヨナラ」を、わざわざ12名バージョンで収録しなおすなど、韓国側製作陣はこれまで12名全員での歌唱に拘ってきたとも言えます。
それが今回ついに韓国でも解禁という事で発表の頃から期待していました。
ファンにとってのユニット曲のメリットとは、メンバーの意外な組み合わせを楽しむことだけでなく、個々の歌声に触れる時間が増えることだと思います。
普段は3分少しの曲を12人という人数で分け合っているために、目まぐるしくパートが移り変わってしまうけれど、人数の絞られるユニットなら一人ひとりの声に集中して聴くことが出来る。
つまり今回のアルバムでは過去作品以上にボーカルを通してIZ*ONEの魅力を意識することになり、その結果、ユジン&チェウォンという二人の歌声がひと際強く印象に残ることになりました。
まずユジンさんから。
学年で言えばまだ高2の彼女は、可愛らしさ全開の「SO CURIOUS」や「STARSHIP」でキュートな魅力を披露できる一方で、大人っぽく見られる風貌と高身長を生かして、クール&セクシーな「AYAYAYA」で堂々と妖艶な姿を見せつけることもできる。
どんなコンセプトでも「アンユジン」として輝いてしまうそのスター性の高さを、今作で改めて見せつけていました。
ただ、こうしたスケールの大きさは前から分かっていたことでもあるけれど、今回改めて気付いたのが彼女の歌声の魅力、少し低めで、独特の甘さを持って響く声の質感でした。
それを最も強く感じたのが「AYAYAYA」での彼女のパート、「私だけに聞こえるようにささやいて」の部分だったと思います。
この聴き手の耳元をなぞるような歌声は、元々の声の特徴や歌詞の意味と綺麗に組み合わさることで、アルバム全編を通しても特に印象深い瞬間でした。
他にもサビを担当した ユニット曲「DAYDREAM」での繊細な高音も、淡くおぼろげな情感を表現して、夢に心奪われていたいという曲のイメージを上手に歌いあげていたと思います。
更には落ち着いたギターの音色が美しく響く「YOU&I」でもその特徴ある声音が存分に生かされていました。
ちなみに、先日ツイッタで公開されたVanessa Carlton - A Thousand Milesのカバーでは飾らない自然な歌声も披露しています。
FIESTA❤
— official_IZONE (@official_izone) 2020年3月9日
고마워요 위즈원
FIESTA❤
ありがとうウィズワン#유진Dream #ユジン#IZONE #아이즈원 #アイズワン pic.twitter.com/iF0kSbdRuT
「BLOOM*IZ」は多様な楽曲を通してユジンさんのボーカルの個性と成長を強く印象付ける作品になっていると思いました。
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ちなみに「AYAYAYA」に関して、この曲の歌割りについては少し感想を付け加えておきたい点があります。
具体的にいうと矢吹さんのパートについて。
この曲はそもそも初めてのコンサートツアー「EYES ON ME」の時に初公開された曲で、その時は6名のユニットだったものに、「BLOOM*IZ」に新たに収録するにあたってチェウォン&なこ&ユジンの3名を加えた9名の形に再編成されました。
その過程で、元々はチョユリさんが担っていた、後半ボーカルが最も盛り上がる「明日の私に期待して」の部分が矢吹さんに変更になった。
率直に言ってこの部分には少し違和感を感じました。
彼女の細く透き通る歌声と、この曲が表現する猛々しい美の圧力とは相性が良くない気がした。
「AYAYAYA」は個人的にも好きな曲で、ライブでのチョユリさんバージョンを何度も見てきたことからくる違和感でもあるかもしれないけれど、こう感じるのにはもうひとつ理由があります。
それは同じく「BLOOM*IZ」に収録された「偶然じゃない(DESTINY)」の存在。
切なく爽やかなこのバラードを手掛けたのは、あのイギヨンペ。プデュ48で矢吹さんが高音部を堂々歌いあげて一躍注目を集めたGFRIEND 「LOVE WHISPER」の作曲者です。
そしてこの「偶然じゃない」も彼ららしいメロディの美しい曲。
となれば想像してしまうのは、この曲で矢吹さんに大きな見せ場を用意してあげる展開もありえたんじゃないかということ。
この曲と矢吹さんの声は凄く合っていて、改めてイギヨンペメロディーとの相性の良さを感じただけに、不満というほどでもないけれど、少し惜しかったかなという気はします。
ちなみにそのイギヨンペ、GFRIENDのデビュー以来今に至るまでの方向性を楽曲の面から決定づけた彼らですが、2月にカムバしてた彼女達の新譜にはタイトル曲だけでなくアルバム全体でも関わっていない模様です。
それぞれ別の道を歩き出したように見えますが、でもBig Hit傘下になり新たな作曲家を迎えても、「Crossroads」を聴いてみると相変わらずイギヨンペだった頃のGFRIENDだったのが面白かった。
あと彼らはIZ*ONEと同時期にカムバしてたRocket Punchのアルバムにも「再び、春」で参加していて、本当にこういう綺麗な曲が得意なんだなと感じます。
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唐突ですが、ここで「FIESTA」活動で誕生したIZONEのレジェンドステージについても触れておきたいと思います。
それは前回記事の最後にも貼った、ミュージックバンクの舞台。
この舞台映像の何が素晴らしいと言えば、6Kまでに対応した高画質・上品なサテンの衣装・その光沢を生かす暗めの舞台演出に加えて、無観客&ノークレーンであるという点を挙げたいと思います。
昨年秋頃から始まっていたらしい「K-Choreo」シリーズは、ミューバンの舞台を時には8Kまでの高画質&全景カメラ映像で捉えるだけでなく、他の番組とは違ってクレーンが邪魔しない点が大きな特徴です。
舞台全体を見渡せる映像スタイルは、エムカや人気歌謡など多くの音楽番組が取り入れていますが、その多くは途中でクレーンカメラが画面を大きく斜めに横切ってしまう。
これは番組収録上仕方のないことだと思っていましたが、しかしこのK-Choreoシリーズは嬉しいことにそれが無い。
その結果、見る側の没入を邪魔することのない優れた映像作品となっている。
加えてこの舞台を特別にしたのが、昨今の事情で仕方なく行われた処置である無観客での収録という条件だったと思います。
ここにはKPopの音楽番組では当たり前のペンライトの光も、コールの大声も、画面手前に並ぶはずの後頭部の列も見当たらない。
ステージの12人以外の色々な要素が引かれた結果、そこに新鮮な緊張感と静寂が生まれ、それがこの舞台の完成度を高めることに繋がったように感じました。
ちなみに私にとってのIZ*ONEのステージ1位は、2019年1月のガオンミュージックアワードでのラヴィアンローズです。
ですが、あの歓声と豪華な衣装に彩られた大舞台とは対照的な、まるで静謐の中で美と情熱を表現する絵画的な迫力を示したこのミューバンのステージも、間違いなくIZONEのキャリアの中で思い出されるべき瞬間になったと思います。
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そしてようやくチェウォンさんについて。
彼女の歌声の素晴らしさはとっくにファンの間ではお馴染みのもので、何を今更という感じもしますが、それでも触れずにいられない存在感がありました。
それを象徴していたのが「BLOOM*IZ」11番目のナンバー、「いつか私たちの夜も過ぎ行くでしょう」でした。
私の感想としては、この曲は「BLOOM*IZ」に収められた全12曲の中にあってクライマックスとしての役割を持っています。
そして最初の方に書いた、個人の歌声に集中できるというユニット曲のメリットを最も象徴していたのがこの曲でのチェウォンさんだったとも思う。
12分の1という条件の中にあってもその歌声の素晴らしいことが知られていた彼女は、例えば武道館ファンミでの「FIRST LOVE」カバーやKCON LAでのチョユリさんとのデュエットなどで、徐々に活躍の場を増やしていましたが、それがこの曲で遂に正式に光を浴びる時が来た。
それもファンの間では普段から特に人気の高いメンバー同士のケミ、つまり組み合わせである「チョユリズ」の一人として。
まずは3人3色の音色が美しいこの曲を作詞・作曲したIZONE不動のメインボーカル・チョユリさんから触れておきたい。
彼女がデビュー前にオーディションを受けていた時、その声を「アイドル向きではない」と評価されたというのは有名なエピソードです。
美しさと共にどこか陰り、独特の緊張感を感じさせるその声が、もしかしたらそう思わせたのかもしれないと、この曲を聴いていると感じます。
しかし他でもない自分自身が作った曲においてその哀調を帯びた歌声を響かせている姿からは、彼女が努力の末に居るべき場所へたどり着いたという、ひとつの物語の帰結が感じられました。
そしてイェナ。
切実に希望を歌うこの曲にあっても、イェナはどこでもイェナということが感じられるのが彼女の歌声の最大の特徴だなと思いました。
普段の明るく屈託のない姿そのままに、感情を素直に歌声に乗せている様子が伝わってきて、聴いていると自然と心が開かれていくようです。
それでも曲が求める雰囲気に沿いながら自身の個性を表現する力は、普段の姿がどんなに天真爛漫でも、やはりプロのアイドルだということに気付かされる。
そしてなんとなく顔が似ているから「チョユリズ」とか面白がられていた組み合わせが、歌声の相性と実力までも伴った素晴らしいユニットだったということを示したのもこの曲の素晴らしいところです。
そしてチェウォンさん。
可憐さと同時に強い芯を感じさせるチェウォンさんの歌声には、持って生まれた才能と自覚的な努力が導いた結果なのだと感じさせる魅力があります。
使い古された表現だけれど、優れた歌手というのは歌声と共にその人だけの物語を紡ぎだすと言われる。
その意味でチョユリズの3名はそれぞれに異なるストーリーを持ち、中でも特に心惹かれるのがチェウォンさんです。
次の瞬間には何を語ってくれるのか、自然と耳を傾けていたくなる歌声ともいえる。
特にこの曲は英語詞がない全編韓国語ということもあり、相手に歌って聞かせるという姿勢が自然に表現されているところもボーカルの魅力を際立たせていると感じました。
彼女は自覚的な行動にも、何気ない普段の振る舞いにおいても、時代を問わないアイドルらしい可愛らしさが溢れ出ている人だというのがファンの一般的な評価だと思います。
しかしその歌声が表現するものからは、人から愛でられるだけの存在には収まらない力と気品、そして折り紙の付いたKPopアイドルとしての自信と迫力を感じる。
そもそも今回のアルバム全体を通して、彼女の存在感はちょっと特別なところがありました。
タイトル曲「FIESTA」で「時は来た。待ち時間は終わり」と冒頭部分を歌い、大きく一歩踏み出すような動きで観衆の視線を集め、最終盤では他の11名が一斉に膝を着いて踊る中、一人立ち上がり「私を照らして」と歌ってみせた。
全体で見ても、1曲目「EYES」の冒頭を「Now I'm crazy for you」と歌い始めて「BLOOM*IZ」全12曲の幕を開け、ラストナンバー「OPEN YOUR EYES」の終わりのパート「Open your eyes eyes」と歌ってその幕を下ろすのも彼女。
センターはウォニョンさんで、最も知名度のあるメンバーは宮脇さんであったりと、デビュー以来今も変わらないIZONEの対外的なイメージがある中、WIZONEの間では良く知られていたチェウォンさんの存在感が、いよいよ表立って現れてきたようにも思える、そんな今回の活躍ぶりでした。
「COLOR*IZ」でのデビューから「HEART*IZ」と続き、そして今回の「BLOOM*IZ」で花三部作の終了。
そしてそれらを導いたPDの退任。
こうしてみると、IZONEの活動は一つの節目を迎えているようです。
しかも世界的に混乱が広がりつつある状況の中で、KPopシーン全体の今後についても簡単に見通すことが出来ない難しい状況でもある。
そんなこんなで少々気が滅入る今日この頃ですが、最後に「BLOOM*IZ」に収められたラストナンバー「OPEN YOUR EYES」に触れてこの記事を終わりにしたいと思います。
「BLOOM*IZ」を含む三部作を改めて通して聴いてみると、その成長と変化を確かに感じることが出来ます。
タイトル曲に一貫する気高い美しさというコンセプトこそ共通していますが、アルバム全体として見ると「HEART*IZ」まではとても真っ直ぐで、純粋にキラキラしてる曲が目立ちます。
それに対して今作はIZONEへと色々な角度から光を当てるような楽曲が多く、その色彩はより深く、複雑になったように見える。
その変化はすでに一曲目「EYES」から始まり、「YOU&I」や「いつか私たちの夜も過ぎ行くでしょう」で強まり、「OPEN YOUR EYES」でそれをはっきりと確信します。
浮遊感のあるイントロから特徴的なこの曲は、今作だけでなく、これまでのIZONEのレパートリーの中で見ても少し異質な存在感があります。
その変化を象徴していると感じたのが曲の中盤。
ここではミンジュラップから始まりチェヨン→ユジン→クラと、歌とラップでシームレスに繋げて行く光景がこれまでにないIZONEの魅力を描き出していて新鮮です。もしダンスが付いたらと想像するのが楽しみな部分でもあります。
「OPEN YOUR EYES」は「BLOOM*IZ」の最後をIZONEの新しい姿で飾り、未来への予感を残すという意味で、花三部作のラスト曲という役割を果たすものだと思います。
以上長々書いてきましたが、結局言いたかったのは「BLOOM*IZ」がIZONEの最新で最高のアルバムだったということです。
そして3部作が終わっても続くIZONEの新たな物語、12名が描き出すだろう未知の景色が、今からとても楽しみです。