猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

銀幕のIZ*ONE。「EYES ON ME:THE MOVIE」

日本で行われたコンサートは実際に見に行ったけれど、映画はとても新鮮な気持ちで見れた。3回見た。リアルでは座席が僻地だったこともあり、劇場で見て初めてこんなことになっていたのかと気付かされることも多かった。

というか単純に映画館の大画面にIZONE12人の勇姿が映し出されることが至福の体験以外の何であり得るだろう。メイク室で鏡を見つめているだけのウォニョンさんの美貌など本当にただそれだけのシーンなのに一幅の名画のような佇まいだった。

すでに多くの優れたレポが書かれているけれど、このブログでも「EYES ON ME:THE MOVIE」について具体的な感想を残しておこうと思う。個人的に映画のクライマックスだと感じた「AYAYAYA」と「La Vie en Rose」の場面が中心になっている。

 

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ステージへ一人づつ登場する演出からの「ヘバラギ」で始まる映画は序盤、実際のライブの展開をなぞりながら、VCR撮影のビハインド映像を挟みつつ進んだ。それはファンにはお馴染みの映像コンテンツである「エノジカム」を連想させるもので、和気あいあいとした楽屋裏を映した、つまり見慣れた光景とも言えた。

しかし映画が中盤に差し掛かって、 コンサートで初披露となる「So Curious」&「AYAYAYA」のトレーニング風景へと場面が移ると雰囲気に変化が訪れる。

回されるカメラを意識することなく、当然笑顔を振りまくこともなく、彼女達が見つめる先は練習室の大きな鏡に映った自分の姿だけ。これまでどのIZONEの映像コンテンツも見せてこなかった光景で、自分はここで映画としての「EYES ON ME」が動き出したと感じた。

それでも「So Curious」組は愛らしい曲の内容を反映してか、忙しくも楽しげなやり取りが交わされていた。その一方で独特の緊張感があったのが「AYAYAYA」組。激しい振り付け練習に懸命に取り組むメンバー達の中でも、特に宮脇さんへ自然と目が行った。薄いメイクでブロンドに染めた髪を乱しながら一心にトレーニングに打ち込むその姿は野生のライオンそのもので、その眼差しはどんなに傷を負っても最後に勝つのは自分だと信じて疑わない戦士のそれだった。

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その勇姿を見ながらふと思った。もし彼女がプデュに参加することなく日本に留まっていたら、眼光鋭くカメラを射抜く美しき獣にもなれるその姿を果たして世界は知ることができたか。彼女の存在はプデュ48とIZONEという二つの理想を端的に象徴しているように思える。

宮脇さんは前にラジオで「AYAYAYA」へ抜擢された当時のことを自分にとって挑戦だったと話されていたと思うけれど、確かに「EYES ON ME:THE MOVIE」のカメラはその只中にいる彼女の姿を捉えていた。

 

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そしてコンサートで初披露された「AYAYAYA」は映画の展開として見ても、また当時のセトリを見返しても、「EYES ON ME」全体の緊張感を増しながら大きく前に進める事件としてのインパクトを持っているように感じた。

センターステージに登場した彼女達を見上げる形で大画面一杯に映し出される映像は映画的な迫力を存分に示していて、チェヨンさんを筆頭にした6名が、あの瞬間コンサート会場を制圧していたことをはっきりと記録していた。加えてこの場面は少人数だからこそメンバー全員を同じ画面の中に頭からつま先まで大きく映し出すことが出来たはずで、「EYES ON ME」を劇場で公開することの効果を最大限に享受していたのもこのシーンだったように思う。

その後に「BLOOM*IZ」カムバショーケースで披露されることになる9人verを知っている今となっても、この6人体制での「AYAYAYA」はそれとはまた別物として存在するべきではないかとも考えた。

 

「AYAYAYA」で一気に加速し始めた映画は、もう一度だけVCR撮影現場を映した和やかなビハインド映像のシーンを挟むのを最後に「寄り道」を止めて、ラストまで「EYES ON ME」コンサートの舞台上を描写することだけに没頭していく。

そのラインナップは「Highlight」「La Vie en Rose」「RUMOR」そして「Violeta」。いまこうして曲名を並べただけでも伝わるように、コンサートのセトリとしても映画の展開としても怒涛の流れだった。

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その幕開けとなった「Highlight」は本当に、アルバム収録曲としてすでに音源だけは公表されていた曲に後から振り付けが加わるとどんな表現になるのかという、つまり見る音楽と呼ばれるKPopが「実際に見えるようになると」という変化を鮮やかに示してくれたという意味で今でも強い印象を残す。夢幻的で妖艶で、とても美しいのに不穏な怖さも感じる、そんな曲を視覚的に表現するという挑戦にKPopの魅力の一端を見た。

そして「La Vie en Rose」。

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IZONEのデビューと共に突如現れた金字塔にして代名詞。この曲が映画「EYES ON ME:THE MOVIE」のクライマックスとなるのは当然の展開だった。チョユリが「いつか輝けるように」と歌いあげてスクリーンを真紅に染め上げたあの時、ステージに降り注ぐ照明は舞い散る砂金、メンバーの衣装で輝くのは散りばめられた宝石の光だと言われたら、あの瞬間なら信じたかもしれない。実を言えば公演当時は違和感を感じた抑制を聴かせた独特のアレンジも、今見れば「Highlight」から「RUMOR」へと繋がる流れの中で意味を持つ変化だったと分かる。そして「FIESTA」と「幻想童話」を知った今になっても、自分にとってIZONEにおける「La Vie en Rose」の存在の大きさを再確認した。

 

ここで映画を通して特に気付くことのあった3名についてざっと触れておきたい。

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ソウル公演初日に大事なラップパートでマイクトラブルに見舞われたためなのか、「La Vie en Rose」や「RUMOR」でラップする時に必ずヘッドマイクを直接手で掴んでいる様子が画面に映し出されていたイェナ

しかしその姿はかえって自分のラップをマイクを通して余すところなく伝えようとする自負と覚悟を表現しているように見えて、ラッパー・イェナとしての風格を感じさせる光景だった。自然と「So Curious」組に振り分けられていたようにカワイイからカッコいいまでなんでもこなせるイェナだけど、彼女自身が一番見せたい姿はここにあるのかもしれないと感じた。

 

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プデュ48を見てた人なら覚えているかもしれない、イェナにからかわれていたユジンの踊りのクセがあった。踊っている最中に首がちょっと埋まったような姿勢になってしまうあれのこと。それがデビュー8か月目となるこのコンサート当時にはまだ健在だったこと、そして少なくとも今年に入ってからはこの癖を見ることはほとんど無くなっていたことに気付いた。

このことはユジンさんの隠れた努力を想像させて誇らしくもあり、でもなんか不思議と寂しいような、よく分からない気持ちになった。

 

そしてチョ・ユリ

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映画の最後、あなたにとってWIZONEとは、との質問に「私が責任を持つべき人達」と答えた彼女。レコーディングブースにおける真剣な眼差しと、作曲家の先生に対する「ネ!」という毅然とした返事の仕方、そして髪を結い上げて振り付けの練習に打ち込む凛とした姿が彼女のその言葉を裏付けていて、普段の愛らしい振る舞いからは伝わりにくい、歌手として聴衆を相手に生きる人間の誠意が本作を通して映し出されていたように思う。

 

2019年6月、その前途に満ちているのは光だけだと誰もが信じていたはずのあの頃を映画という姿に留めた「EYES ON ME:THE MOVIE」。この映画が2020年の夏にここまで複雑な意味を持ちながら公開されることになるとは誰が予想できただろう。

その後にIZONEを襲ったグループの正当性に対する疑義。コンサートというアイドルとファンの集う聖地が奪われた現在の状況。この二つの衝撃を、映画は直接映し出すことなく、しかし見るものに強く意識させる。「EYES ON ME:THE MOVIE」は素晴らしい出来だったけれど、爽やかな感動だけを残して終われない理由がここにある。

でも今にして思えば、この映画はそうした影響から逃れられる最後のタイミングにおいて完成していた、つまり間に合ったとも言えるのかもしれない。

来年の春にIZONEは区切りを迎えることになっている。グループ発足当初から二年近くが経ち、様々な事情が大きく変化した今、果たしてかつての台本になんら修正を加えることなくそのまま従うべきなのか、個人的に思うところはある。

それでも今は、IZONEとWIZONEが共有する美しい記憶を映画という最高の形で残すことが出来たという幸運と、コンサートと映画という二つの「EYES ON ME」を作り上げた12名を始めとする全ての人達の努力に感謝したい。

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