猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

年の瀬のNewjeans

 

レコード大賞で優秀作品賞と特別賞を受賞、NHK紅白歌合戦ではメドレーを披露するなど、Newjeansが本格的に日本で認知され始めたと感じたのが2023年の暮れ。あの5人が今のKPOPにおいて特別な存在であることは最初から周知のことだったけど、日本の茶の間を通して眺める彼女達の姿は明らかに他のKPOPグループとは違って見えて、むしろ日本のアイドルに近い何かを感じた。

そもそも日本では女子アイドルと音楽、コンセプトの関係に強い縛り、お約束のようなものが少ない印象がある。PerfumeにBABYMETAL、最近では新しい学校のリーダーズを筆頭にその表現は様々で、あまり有名でないグループも含むとその傾向は一層強くなる。逆に48系や坂道グループが見せている制服+集団という、一時期メディアで支配的だった「日本のアイドル」イメージは、その固定的プロデュースの仕様ゆえにむしろ例外的な存在なのではと思える。

Newjeansから感じ取れる作り手のこだわり、KPOPの長所を生かしながらも強固な約束事から自由になろうとする姿勢は、そんな日本のアイドルシーンが見せる挑戦的で自由な姿勢と親和的だからこそあれほど年末の茶の間に馴染んだのかもしれない。

 

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少女時代やKARAからTWICEやBLACKPINKを経て現在のaespaやIVE、LE SSERAFIMに至るまで、いわば由緒正しいKPOPの系譜と呼ぶべきものがある。それは流行を意識しつつそこから独自性を作り出そうとする試行錯誤の過程でもある。

第4世代の一角であるNewjeansも当然その中の一部であるにもかかわらず、そこから頭一つ抜け出て画期的な影響をKPOP全体に与えているのを皆が目撃しているのが2024年の現在だと思う。なぜNewjeansでそれが可能だったのか、その理由としては各種の評判を見る限り、ミン・ヒジンというプロデューサーの持つ個性に負うところが大きいとされている。

KPOPというものはとても多くの人々が組織的に関わる作業と、そこへ投じられる多額の資金、そしてある程度出来上がった業界の方程式の存在を前提にしている。その構造は高いクオリティを支える一方で、似通った結果を生むことにも繋がってしまう。でもNewjeansが属するHYBEとそのレーベルであるADORは、プロデューサーの個人的な感性を生かしつつ組織の資力によってそれをサポートすることでNewjeansという成功を導いたように見える。

個人の感性と言えばNewjeansはデビュー以来、その魅力を形容する時に岩井俊二、SPEED、ソフィア・コッポラなどの名前がよく用いられてきた。いずれも90年代後半から2000年前後にかけて際立った注目を集めた存在で、ミン・ヒジンの年齢を考えると彼女がリアルタイムで一連の作品から刺激を受けていたことは想像に難くない。

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そして音楽が本職ではないミン・ヒジンに代わり実際にNewjeansの楽曲プロデュースを手掛けている250(韓国語でイオゴン)は、しばしばポンチャックという韓国の大衆音楽ジャンルと、その第一人者であるイパクサ(李博士)の影響を公言している。イパクサと言えば96年頃に電気グルーヴが面白がってコラボなどしたことをきっかけに韓国でポンチャックが再評価されることになったという経緯がある。つまりここでも90年代日本の空気感がNewjeansに流れ込む。

上のインタビューでは何度か、最近のミュージシャンのことは良く知らないという意味の発言が出てくる。代わりに語られるのはポンチャックでありYMOの影響であったりする。ミン・ヒジンや250と言った人達が、時勢に流されることなく、本当に愛着のある自身の過去との対話から生み出したものが2024年の今になってNewjeansを通して実を結んでいるとするなら、あの5人の若者の華やかで溌溂とした舞台に不思議と漂う色褪せたもの悲しさ、新旧の時間の重なりを思わせる情感の存在することにはそれなりの理由があることになる。

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「Ditto」が流れて来た時、一息つけたような感覚があった。好きで日々KPOPを追いかけていたはずなのに、自分でも気付かないうちに少々の疲労感を覚えていたらしかった。その時ふと、我が世の春を謳歌するKPOPシーンが知らず知らずのうちに閉塞状況に陥ろうとしていたのではないかと想像した。何かが一つ流行ると皆が一斉に同じ方向へ突っ走って大きな流れを作るKPOPの世界。それはつまり、壁にぶつかる時はみな同時という事でもある。Newjeansはオルタナティブを提示することでKPOPそのものを救っていたのかもしれない。

作り手を通してそこはかとなく感じ取れる90年代日本への意識が、あの5名を他のKPOPグループとは決定的に異なるものにしている、というのがこの文章の結論になる。世界における彼女達の人気はすでに決定的で、その反響を見ればBLACKPINKやTWICEの後に続くガールグループであることは明らか。たとえ放っておいたところで国内でも更なる人気を得ることになる。それでもここまで書いてきたような理由から、日本にはNewjeansを特別な存在として珍重すべき理由があると思う。

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