猫から見たK-POP

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若さゆえに。STAYC「Young Luv」

STAYCと言えばその音楽だけでなくメンバーの高いボーカルスキルや華やかさも注目されて、中小事務所の新人グループながらデビュー以来とても順調な活動を続けてきた。2月21日発売になった4枚目のCD「YOUNG-LUV.COM」も、STAYCがそうして得てきた高い評価をアルバムという形で改めて証明するものになっていた。

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活動曲となった「RUN2U」は未来感のあるイントロから始まり堂々として主体的な姿勢を表現するあたり、デビュー曲「SO BAD」からの流れを汲んだSTAYCらしい正統的な作りになっていた。6曲が収録されたアルバム全編を眺めてみると音楽的な洗練を感じさせる表現が目立ち、「247」「BUTTERFLY」「I WANT U BABY」など、ここまで一年半ほどの活動を重ねてきたことによる成長や余裕を感じさせる曲が揃っている。

そんな「YOUNG-LUV.COM」は初動の売り上げが15万枚を超えたといい、今回のカムバは数字の上でも素晴らしい結果を残した。それに加えて今作は、個人的にもSTAYCを再認識するきっかけになったという意味で重要な一作になった。これまで何となく好感は持ちつつも遠くから冷静に眺めていたSTAYCが自分にとってその存在感を一変させるきっかけになったのは、今回のアルバムに収録されている「Young Luv」という一曲だった。

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これまで3枚のCDを通して前向きな恋の歌を多く届けて来たSTAYCが、このように若さゆえに傷つけ合う恋愛模様を歌うことは、まるで聴き手に対して冷たい何かを突き付けるような意外性を持った。

ノスタルジックに響くエレキギターの音色と何かを振り切るような決意を感じさせる歌声が重なり合うイントロで始まるこの曲は、喪失や傷を歌いながらも憐憫を誘うことはなく、そこで表現されるのは自他ともに傷つくことを覚悟した感情の高ぶりと、それでも隠しきれない心の揺らぎ。

そんな曲の中心で「あなただけを見てるわけには行かない」と歌い、この曲の持つやり切れなさを美しく明確に表現してみせたメインボーカルであるシウンさんの歌声は「Young Luv」の全てを象徴していたと言える。その甘く繊細な歌声でSTAYCを特徴づけていた印象の強い彼女が今回新たに見せた凛として張り詰めた姿は、青春に特有の逃げ場のなさを劇的に表現して聴く人の胸を打つ。

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この曲を通して改めてSTAYCの魅力はその単純な歌唱力の高さだけでなく、6名のボーカルが個性を競い合いながら同時に調和を作っているところにもあると感じた。メインのシウンだけでなく、力強く真っ直ぐに届く歌声のユン、意思と気品を歌に込めるスミン、はっきりした輪郭を持ってラップとボーカルの双方で存在感を放つジェイ、儚く透き通る高音のセウン。そしてアイサ。彼女のおぼろげに揺らいで響くその歌声には天性の瑞々しさと切なさが感じられて、共にサビを分け合うシウンとはまた違う詩情を帯びることで「Young Luv」を一層特別なものにしていると思えた。

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KPopを形容する「見る音楽」という言葉を、これまで素直に受け入れて入れて来た。複雑なフォーメーションとダンスの組み合わせで表現される華麗な光景はKPopに必須のものだと思っていた。その一方で、そもそもアイドルは歌手なのだから音楽と歌声のハーモニーだけで聞き手の感情を動かすことは自然な事のはずだった。しかしダンス曲を中心にあまりに華やかに繰り返されるKPopの現実を前に、ついその当たり前を見失っていたように思う。

「YOUNG-LUV.COM」のCDジャケットにデザインされたハート型の有刺鉄線が示すように、時に互いの勝手で傷つけあう若い恋の一瞬を美しい旋律と歌声で音楽という形に残したSTAYC「Young Luv」は、そんな風に多少KPopの輪郭を分かったつもりになっていた自分の思い込みを鮮やかに砕いて見せる一曲だった。