5人の少女のシルエット、その背後を横切って転がる巨大なクッキー、気の抜けた「イーヤー」という謎のセリフに、浮かび上がる曲のタイトルは「Cookie」。「私が作ったクッキー、君のために焼いたの」、可愛らしい歌詞はこう続ける、「でもね、ただじゃない」。
NewJeansがデビューした。
NewJeansの登場
まるで話しかけるように歌い、劇的な見せ場を作るわけでもないのに忘れ難い印象を残す。NewJeansのパフォーマンスからは昨今の激しい競争の中でともすれば定型化しがちなKPOPシーンを柔らかく解きほぐすような開放感を感じる。
HYBEが新設したレーベルのADORから7月22日にデビューしたガールグループ・NewJeansは、7か国16都市を巡って開催されたオーディションを通じて選ばれた韓国籍3名・韓国&豪州国籍1名・ベトナム&豪州国籍1名からなる5人組。
「Cookie」を含む3曲でデビューを飾り、そのいずれもが高い評価を受ける中で特に「Attention」が韓国内の複数音源チャートで1位を記録するなど破格の成績を収めている。更にSNSでの反応を見ていると、日本国内でも普段KPOPに熱心でない人達にまでその音楽が届いているようで、KPOPグループとしては珍しい影響力の形と広がりを感じる。
NewJeansの統括プロデューサーであるミン・ヒジンはKPOP最大手のSMに在籍中、流行におもねらない独自性のあるビジュアルデザインで評価を高め、やがては「目に見えるところ全て」と表現されるほどに所属アイドルのクリエイティブ全般にかかわるようになった女性。SHINee、F(x)やRed Velvetなどで彼女が手掛けた作品の影響は一つの会社内に留まらず、以降のKPOPシーン全体にも大きな影響を及ぼしたとされている。
NewJeansはそんな彼女が長く勤めたSMを退社後に始めた第一歩であり、あのBTS擁するHYBEという新たな体制の中でその力が遺憾なく発揮された結果となった。
aespaとNJ
そんなNewJeansの素晴らしいデビューはもうひとつ別のアイドルグループへ光を投げかけているように感じる。そのグループとはaespa。
2020年11月にSMからデビューしたaespaはSTAYCやIVEにLE SSERAFIMなどが活躍する第4世代KPOPガールグループの筆頭とされていて、少し前にはアメリカでコーチェラのメインステージに立ったことも記憶に新しい。
そんなaespaからはNewJeansが見せる個人的かつ趣味的な美意識とはまた違う、KPOPが今日まで磨き上げてきた王道の魅力を感じる。
それは例えば「アバター」や「クァンヤ」といった、グループを巡る物珍しい世界設定を作ってファンを楽しませようとするサービス精神であり、あるいはウィンターとニンニンという二人のボーカルが誇る力強い歌唱でaespaの音楽を聴衆に直接届けようとする姿勢、そしてなにより、あの印象的な振り付けの中に明確に現れている。
デビュー曲「Black Mamba」では4人が一斉に全身を沈める振り付けで視線を奪ってグループの登場を強烈にアピールし、更には曲名の通りにヘビのシャーッっていう動きまで取り入れていた。あの「NEXT LEVEL」の腕を曲げる仕草は大きな話題になって色んな所で真似されることになったし、最新曲「Girls」においても手でポーズを決めながら片足でけんけんする振り付けで舞台を特徴付けていた。
こうした明快さは、まさにその分かりやすさから批判的な意見に付け入る隙を与える可能性もあると思う。けれどもKPOPの先端で自覚的に大衆性というものと向き合っているSMにとってはそんなことは百も承知であるはずで、そこにaespaの覚悟を感じる。
改めて二組の姿勢を例えるなら、ミン・ヒジンのNewJeansが見せる個性は狙いすました射撃で独自の芸術性と大衆性の重なりという難しい的を華麗に射抜く射手のよう。
一方のaespaは至近距離で大衆性と取っ組み合い、その開放性ゆえに軽んじられかねない危険を紙一重でかわし、狙いすました反撃で結局は勝利する。その姿はあたかも返り血を浴びることも恐れないコロセウムの剣闘士。なんせaespaはデビュー曲で巨大なヘビと戦ってる。NewJeansがMVの中で映画のように淡い恋愛風景へと身を浸しているのとはだいぶ違う。
デビューした時は気付かなかったけど、aespaにはミン・ヒジンが去った後の初めてのSMガールグループという性格があった。F(x)やRed Velvetなどを通して強い影響力を持った彼女が離れた後のグループをどうするのかという挑戦でもあった。
NewJeansの登場はそんなaespaの特徴を改めて際立たせたように感じる。そしてそれはNewJeansにとっても同じ。それぞれの魅力で互いに相手を照らし合っている。
共にKPOPガールグループ第4世代に分けられ、過去と現在でSMに深い関係を持ち、異なる表現を駆使しながら並び立つ。この二組の関係性には今後のKPOPシーンを牽引していく迫力を感じる。