これはKPOPという名の砥石で研がれた可愛らしさの刃だと、3月25日にデビューしたILLITの「Magnetic」を見ていて思った。
ここ最近のガールグループKPOPの平均からすると驚くほど甘くメルヘンな雰囲気で始まる「Magnetic」は、ミンジュの歌い出しと同時に5人が一気に弾けるように展開する。このイントロの緩急がとても鮮やかで、KPOPというかアイドルのデビュー曲としてのお手本を見るようで目の覚める思いだった。
「Magnetic」全体の流れはそのコンセプトの甘さからすると意外なほどの疾走感に溢れているけれど、2024年という時代にアイドルの王道を正面突破するにはこれくらいの早さがないと成立しないということなのかもしれない。
ダンスについても、5人がシンクロする部分とグラデーションになる部分のバランスにメリハリが効いていて終始目が離せない。今回の振り付けのキーポイントと思われる、指で何かを数えるような、あるいはあや取りを想像させる動きも、指先に注意を向けさせることで繊細な印象を与えることに成功している。
鮮やかな反転
それにしてもILLITのデビューにここまでのインパクトを感じることになるとは、彼女達がHYBE傘下かつENHYPENの後輩グループという立場であるにしても、少々意外だった。
というのもILLITは「R U NEXT」というサバイバルオーディション番組を経て結成されたものの、番組は期待されたほどの注目を集めることが出来ず、さらにメンバー選考の過程と結果には賛否があった。
おまけに番組終了後の準備期間が思いのほか長くなることでサバイバルオーディション発のグループに特有の熱気は冷めてしまい、そうこうするうちになんとメンバーの一人がデビュー目前で活動を辞退してしまう。
果たして本当にデビューできるのか、したとしてそのクオリティは大丈夫なのか。時間が経つにつれ不安は高まり期待値は下がる、そんな状況において届けられたのがこの曲だったので、そのギャップはすごかった。
ILLIT「Magnetic」の意義
「Magnetic」は冒頭におけるウォニの夢見がちな乙女の表情が、おそらく見る人の多くに強い印象を与える。ここ数年のKPOPガールグループの流行や変遷を眺めていると、ここでの彼女の仕草そのものが一つのトピックのように感じられた。
KPOPにおいて女子アイドルだからこそのストレートな可愛らしさの表現は、ありふれたもの、陳腐なものと見做される風潮があったと思う。それはおそらく、ガールクラッシュとよばれる「同性が憧れたくなる女性」の魅力を強調するコンセプト、あるいはそれに類するものがKPOPシーンを席巻して久しい現実とも関係がある。
そのため世界規模での成功を義務づけられた大手事務所のガールアイドルなどは特に、女子アイドルである以上は自然と生まれる可愛らしさとの距離感をいかに巧妙に定めるかで工夫を重ねてきた。その結果はNewjeansやIVEなど、第4世代と呼ばれるアイドルグループの多様性にはっきり表れている。
ところがILLIT「Magnetic」は近年稀に見るレベルの率直さで少女の愛らしさを前面に押し出し、国内外で好評を得ている。そして音楽番組の現場において女性の歓声が目立つ光景は、彼女達がKPOP最大手HYBE傘下のレーベルから登場した事実と併せて、その成功がKPOPシーンにおける「可愛い」の復権という意味まで持つように思う。
そうした意味を象徴しているものとして今作でのウォニのややあざとい表情や仕草を眺めていると、それはただ可愛いだけのものではないように見える。