猫から見たK-POP

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LE SSERAFIM「THE WORLD IS MY OYSTER」

 

LE SSERAFIMが5名のメンバーを揃えてデビューするまでの日々に密着したドキュメンタリー「THE WORLD IS MY OYSTER」を見た。

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HYBE初のガールグループという謳い文句でデビューして期待通りの活躍を見せた一方で、中心的なメンバーがスキャンダルの末に脱退へ追い込まれるという騒動が世間の注目を集めたルセラ。その余波が完全に消えたわけではない中、6人でデビューを目指していたはずの時期を撮影対象としているコンテンツを公開することについて戸惑う反応も目についた。

その「THE WORLD IS MY OYSTER」、実際に見てみると映像編集作業を徹底させた結果として最初から5人組だったのではと錯覚させるほどの仕上がりになっていた。諸々の経緯を知っている視聴者に対して何かを釈明するという場面などはなく、5人体制のルセラを正史として描いていて、それ自体が一連の騒動に対する公式の宣言にも思えた。

ひとつのドキュメンタリーとしては、こうしたセンセーショナルな部分を意識しながら見る以外にもメンバー個人の心情に迫る場面などもあって最後まで飽きずに見れた。以下で特に気になった見どころについていくつか触れてる。

 

HYBEだからこそ

LE SSERAFIMには元IZONEの2名がHYBEへと移籍する形で参加しているけれど、2018年からの2年半だけ活動したIZONEがもたらした栄光と達成感は、「燃え尽き症候群」のようにアイドルとしてのその後のモチベーションに難しい影響を与えた可能性もあったかもしれないと、宮脇咲良&キム・チェウォン両名の姿を眺めていて感じた。

特にキムチェはHYBEの誘いだったからこそ、というような思いがその言葉に滲んでいて、自分などは彼女が元々所属していた事務所から既にデビューしていたグループへのIZONE後の合流もあり得ると思っていたけど、実際にはそうした可能性は相当に低かったのだと分かった。

おそらく宮脇さんとHKTの関係もまた同じようなものだったのではと思う。KPOPのトップグループとなったIZONEの中心でいることの喜びを覚えた彼女にとって、そのアイドルとしての渇望を満たせる環境をふたたび日本国内で見つけることは簡単なことではなかっただろうと想像する。

そしてこの2名だけでなく、一度はアイドルを諦めてアメリカに戻っていたホ・ユンジンさんや、幼い頃から続けていたバレエに見切りをつけてオランダから韓国へ渡るという人生の選択を行ったカズハさん含め、HYBEの剛腕が国境を越えて色々な人の運命を巻き込んでいった様子が一連の映像からは伝わった。

 

騒動の遠因

ルセラ直接の所属事務所、ソスミュージック社長であるソ・ソンジンが、メンバー選考過程において時間が十分に取れなかったことを示唆する場面があった。世間を賑わした脱退騒動の原因には、会社としてメンバーに対する評価と判断を誤ったことがあったわけだけど、彼の言葉はその後にルセラが陥ることになる大混乱を予感させた。

更に言えば5人のメンバーがそれぞれ集合してくる時期とその後のトレーニング期間を合計すると長くても1年ほど、短いメンバーではわずか数か月にしかならない。ルセラはデビュー前から時間を巡って大きな葛藤を抱えていたことが分かる。

キムチェはインタビューの中で、こうした状況の中でデビュー予定日が延期されるなど刻々と変化する周囲に不安を募らせていたことを吐露していて、その姿は組織の中におけるアイドルの等身大を浮かび上がらせていて強く印象に残った。

そもそもコロナ禍が及ぼしていた影響や、同時期に編成されつつあった同じHYBE傘下の
New Jeansとの関係など考えるべき事情は多く、結局この時期に見逃してしまったほころびがあの騒動に繋がったのだと今では思う。

 

自己管理とは

3話において会社の人間がメンバーに対して自己管理について説く、つまり体重や体型について指摘したことで現場に緊張が走ったシーンが放送後に注目を集めていた。

改めてこうしたやり取りを見せられると、体型というプライバシーの中でも特に高度な部分について外部から指摘されることの異質さが際立っていたように思った。とても落ち着いた口調で指摘されることで、かえってアイドルビジネスにおいて当たり前となった構造的な暴力性が感じられた。

こうしたことは、少なくとも業界の内と外の関係では暗黙の了解として存在していることだと思ってたので、公式コンテンツの扱いで悪気無く公表されたことに少し驚いた。あくまで自分の感想ながら、メンバーそれぞれの反応からはその矛盾を理解した上で自分なりに最善を尽くそうとしているのにも関わらず、このように他者から表立って言及されることへの当然の憤りが垣間見えていたように思う。

 

まとめとか

個人的にはカメラに映るHYBEの新社屋も面白かった。New JeansのPDであるミン・ヒジンが設計に関わったおかげで素敵な仕上がりになったと評判で、映っていた部分だけでも見晴らしの良い廊下とか屋上に植わっている白樺などからそのセンスの一端が感じとれた気がした。

韓国を代表する企業の一つであるLGUプラスと肩を並べているところが象徴的な、事実上のBTSビル。建物の左上部分に屋上庭園の樹影が見えるけど、土の少ないところでも植えられる種類を探した結果、白樺ということになったらしい。

まとめると、「THE WORLD IS MY OYSTER」は色々考えさせるシーンも多くて見応えのあるドキュメンタリーになっていた。HYBEのグループだからと言って特別スムーズにデビュー出来たわけではないことについて、予想は出来てたけど映像になったことで改めて伝わる部分もあった。

そんなLE SSERAFIMは現在5人体制となって初めてのカムバックを間近に控えている。これはグループにとって大事な仕切り直しの機会でもあり、喝采と騒音の入り混じるデビューを経た後で、改めて世界という名の真珠貝をこじ開けてその輝きを掴めるのか、注目してる。